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妄想小説@「地味メガネ」(大野智)中学編〜出会いは最悪〜

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自転車の後ろでゆられながら、思い出すあの日のこと。









「ねえ…えっと、そこのメガネの人!」





私が大野と初めて話をしたのは、入学してすぐ、教室に掲示物を貼るときだった。

掲示係なんていう、めんどくさい係になって、先生に仕事を頼まれた日。


学活で書いた自己紹介の紙を、教室の後ろに貼るために残っていた。

一年生は、まだ部活も始まっていないから、放課後の教室は、人の気配なく静かだった。


同じ係の森さんは、別の仕事を頼まれて、先生と一緒にさっき教室を出て行ったばかり。

だから、ここにいるのは私だけ。



「あー、もー、めんどくさいってば!」


大きめの独り言を言いながらロッカーによじ登り、教室の後ろの壁に手をかけたものの、

photo:02



肝心の自己紹介の紙を、床に置き忘れていた。


「あー、もー、最っ悪!」


登るのは結構大変だったから、ここを降りて、拾いにいくのはめんどくさい。


あー、誰か…、森さん早く戻ってきて。


そうしてしばらく降りるのをためらっていると、パタパタと廊下を走る音がする。


帰って来たのかと耳をすませば、教室の前でピタリと足音が止んだ。

すぐにガラッとドアが開いて、森さん…じゃなくて、小柄な男子が息を切らせて入ってくる。



私が後ろにいるのを気づかない様子で、「プリント…プリント…。」と独り言を呟きながら、自分の席についた。

ガサガサと机の中を漁る音。


同じクラスの男子だって言うのはわかるけれど、まだ友達じゃないし、なんだか、声を掛けづらい。

そのまま息をひそめて、しばらく様子を見守っていた。




今はまだ、四月の始め。

「大野」と「安田」じゃ、名前の順は端と端。

だから、用事がなければ話なんかしたことは無いし、同じ小学校じゃないから、名前すらわからなかった。




「あった!」

大野が、喜びの声をあげる。
私は、今がチャンスと、声をかけた。



「あ、ねえ、今来た、メガネの人!」


ロッカーの上から、仰け反った姿勢で呼んでみる。

大野は一瞬動きを止め、後ろを振り向いて私を見た。


それなのに、知らん顔して机からプリントを引き出すと、さっさと教室を出て行こうとする。



「ねえ、ちょっと!あんたしか、メガネかけてるの、いないでしょ!」


もう一度大声で呼ぶと、大野は無愛想に振り向いた。


「ね、ちょっと、そこに落ちてる、自己紹介の紙、取ってくれない?」


大野は、床の紙を一瞥すると、ピシャリと私に言い放った。


「…嫌だ。」


「はあ?ちょっと、取ってくれたっていいじゃない!」



「嫌だ…じゃあ、僕と付き合ってくれるならいいよ。」


「はあ?なに言ってんの!ケチ!アホ!地味メガネ!」


大野はメガネのふちに手をかけ、黙って教室を出ようとする。


「あ、ちょ、ちょっと、待ってよ!もー、分かったよ。付き合うよ、付き合うけど、付き合うってなに?」


すると、大野はドアの前で立ち止まり、口に手を当て肩を揺すって笑い始める。


「さあ、僕にもわかんない。昨日読んだマンガにあったセリフを、ちょっと言ってみたかっただけ。」


「はあ?ふざけんな、アホ!地味メガネ!早く紙を取れっ!」


カーッと頭に血が登り、早くしろと手を伸ばした。



「はいはい。」


大野は笑いながら返事をして、床の紙をサッと拾うと、それを持ったまま、ロッカーの上にひょいと登ってくる。


そして、私の隣に立つと、
「ここに貼ればいいの?」と聞いた。

ビックリしながら頷くと、私の手から画鋲を奪ってサッサと貼っていく。


これ、登るの、結構手こずったんだけどな…。




「あ、ありがとう…えっと…。」


「…大野。」

photo:03




大野は紙を貼りながら、そっけなく答えた。


「あ、大野。」

私がそう言うと、手を止め私の方を向く。


「初対面で、呼び捨てする女子って初めてなんだけど。」


「え?なにそれ?そんなこと言う男子も初めてだし。
じゃ、大野の誕生日っていつ?」


「11月だけど?」


「私、4月!
ほら、大野の方が年下じゃん。だから、呼び捨て。それに背だって、私の方が高いし。」


確かにその時は、私の方が5センチぐらい高かった。

今は、私の方が完全にチビだけど。



「…はいはい。」

「あしらうな、大野!」


大野は、自己紹介の紙に視線を落として静かになる。


「趣味は、シール集めと音楽鑑賞。
好きな言葉は、一期一会。
おっちょこちょいですが、よろしくお願いしますっと…はい、よろしく。」


紙を読み上げながら、大野は顔をあげ、それを私の前に突き出してニヤリと笑う。

私はそれをバッと奪い取ると、大野をキッと睨んだ。


「これからよろしくね、安田さん。」


大野はそう言って、ぴょんとロッカーから飛び降りると、教室を出ていった。


手の中には、私の自己紹介の紙がぐしゃっとつぶれている。


「んもー!地味メガネのやつ!覚えとけよ!」


私はそれを適当に広げて、空いてる場所に貼り付けると、


photo:01




大野の自己紹介の紙の前に立った。

そして、そこに貼ってある写真の鼻の穴に画鋲を二つ突き刺して、ガタガタとロッカーを降りた。








それが、私と大野が初めて話をした日のこと。

まだまだ恋なんて程遠い、12歳の出会いだった。














おしまい。








……………




皆様にお返事ができない代わりに、
お話を書かせていただきました。


こんな感じな二人です。



あ、もう、このお話は、これでおしまいのつもりです(;´Д`A


時間が取れなくて、お返事はできませんが、何かありましたら、遠慮なくコメント欄に書いておいてくださいね。


いつもありがとう。
感謝しています。





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