おはようございます。
深夜にお話を投下したにもかかわらず、意外と皆さん起きていてくれて、何だか眠れない自分と時間を共有してくださったみたいで嬉しかったです。
お話に対しては、最近いろいろ思うことがあって、あんまり書いていませんが、読んでくださる方がいるってだけで、次も書こうかなって気になれます。
いつもありがとう。
楽しんでくれたり、ちょっとでもキュンってしてくれたら嬉しいな。
あ、今度の「夜会」楽しみですね。
一人夜会とは言わず、五人で夜会すればいいのにな~って思いますよね??
今日も素晴らしい一日を!
☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*☆*゚ ゜゚*
「屈折」
優しすぎて怖くなる。
好きすぎて不安になる。
いつか棄てられるんじゃないかって、漠然とした恐怖が付きまとう。
だからもう限界。
怖くて、怖くて、限界で…
いっそ嫌いになれたらと、知らない人と飲みに行って…
酔いつぶれて、襲われそうになって、逃げて帰ってきたら、家の前に智がいた。
「どこ行ってたの?心配したよ。」
イヤホンを外しながら、いつもと変わらぬ笑顔を私に向ける。
智の笑顔を見ると、反射的に血がブワーッと流れ始めるから、酔った身体はもっと熱くなっていく。
「なんか…あった?」
目線が、私の胸元に向けられていることに気づいて、大きく開いたシャツを右手でギュッと掴んだ。
「ボタン…どうしたの?」
「…取れた。」
「なんで?」
「男の人と飲みに行ってたから。」
智は、それ以上聞かなかった。
「…怒らないの?」
「お前がそうしたかったのなら、俺はどうこう言えないよ。」
…そうだよね。
期待した自分が恥ずかしい。
何言ったって、何したって、智は全然怒らない。
分かってるのに…バカだ。
空回りする自分が辛い。
「別れたい。」
「…お前がそう言うなら。」
いいんだ…。
…別れても…いいの?
「ばか!」
「俺、バカだから。」
「ムカつく!」
「怒らせてごめんな。」
「なんで謝るのよ!」
「じゃあ、ありがとう。」
「ありがとうってなに?もっと他に言うことないの?」
「他に…か。」
智は、右手の親指を下唇に当てた姿勢で、全く動かない。
理不尽に怒っている自分。
だけど、気持ちに収拾がつかない。
イライラは頂点に達して、あなたに向かって牙をむく。
「なんとか言ってよ!」
「…好きだよ。」
「…え?な、なに言っ…。」
「言いたいこと、考えたけど、それしか浮かばねーよ。」
「智のバカ!もうほんとに別れたい!今すぐ別れたい!」
ボロボロと涙がこぼれてどうしようもない。
「大丈夫か?」
「ほっといてよ!優しくしないで!」
心と言葉が裏腹で、苦しくてたまらない。
好きすぎるから別れたいだなんて、裏腹もいいところ。
それでもどうにもならない。
「ほんとに大丈夫なのか?」
智の手が、私の頬に触れる。
じりじり熱くなる頬と、どんどん速くなる鼓動。
大丈夫じゃないって、抱きつきたい。
「ごめんな。」
好きだよ、智。
苦しいよ。
「うるさい!…うるさい、うるさい!触らないでよ!怖いの!怖くて怖くて不安で仕方がないの!だから別れて!」
アタマがぐるぐるして、自分が何を言ってるのか分からなくなる。
最後の悪あがきをしているみたいに、ジタバタせずにいられない。
「嫌よ!怖いの!不安なの!バカ!バカ、バカバカバカバカバ…。」
「そうだな…。」
智は頷き、キーキーわめく私の唇を、人差し指でそっと塞いだ。
ゼンマイが止まったみたいに、動きを封じ込められた私は、目の玉だけを動かして、智を見上げる。
「キス、していい?」
智は、私の唇の上にあった指を、ゆっくり顎に移動させて、もう一度低く甘く囁いた。
智は、私の唇の上にあった指を、ゆっくり顎に移動させて、もう一度低く甘く囁いた。
「…していい?」
「や…やだ…やだやだやっ…。」
子供みたいにバタつく私の手を掴んで、ぎゅっと私を引き寄せる。
「や…やだやだや…やだ…や…。」
「…好きだよ。」
智の柔らかな唇が、私の唇にそっと重なった。
身体の真ん中を太い棒が突き抜け、串刺しになったみたいに、強く何かかが走り抜けていく。
「やだって言ったのに…やだって言ったの…別れるの、もう智とは、別れるの…。」
「うん。」
「別れるの。別れるんだから…。」
「うん…わかったから、もう黙って。」
智の大きな手で口を塞がれて、スイッチが切れたみたいにおとなしくなる。
「そんなに俺が嫌い?
そんなに俺が信用できない?
そんなに俺と、別れたい?」
身体がぎゅーっとなる。
塞がれた唇に触れる、乾いた手のひら。
怖いくらい、好き。
私は、智の小指を噛んだ。
言葉を発すれば、裏腹な言葉しか出てこない。
だから、もう黙っていよう。
屈折した私を包んでくれるのは、智しかいないのだから。
end