驚いたことに、追試は満点。
私は、答案用紙を返すために、大野くんを準備室に呼び出した。
バンッと、大げさに開くドアに驚きつつも、今日もちゃんと来てくれた。
「テスト、返すね。」
私が、答案用紙を差し出すと、奪うように手にとって、ぐしゃっと丸めてポケットにいれた。
大野くんは、両手をポケットに突っ込んだまま動かなかった。
「ん?なに?」
ああ、確かに…大野くんの前ではおこってばかり。
そういいながらも大野くんは、答案用紙をきちんと折って、もう一度ポケットにしまった。
思わずまた謝る私を見て、大野くんの表情が一瞬緩んだ。
口元を手で覆って、尖った目尻がキュッと下がる。
「あんた、思ったよりバカだな。」
「きょ、教師に向かってバカとはなによ!だいたい私がいつも怒られてるのは、あなたの…
続く
…………
「あ、だから、ダメだって、せっかくの…。」
手を伸ばしかけて、ぐっと握った。
「ごめん、もう関わらないんだったね。いいからもう、行きなさい。
あ、それから…満点、おめでとう。」
私は、握った手をおろして、少しだけ微笑んだ。
このテストで満点を取るのは、容易なことではない。理由はどうあれ、大野くんの頑張りは賞賛に値する。
大野くんは、両手をポケットに突っ込んだまま動かなかった。
「ん?なに?」
「いや、俺の前であんたが笑うは、はじめてだな。」
ああ、確かに…大野くんの前ではおこってばかり。
ポケットに突っ込んだままの大野くんの手が、丸めた答案用紙と一緒に、もう一度私の目の前に現れた。
大野くんは、それを机の上にボンと放り投げると、コロコロ転がって、私の前で止まる。
「…で、せっかくの、なに?」
「あ…えっと…せっかく満点とったんだから、大切にした方がいいと思って。きっと、ご家族の方も喜ぶだろうし…。」
「くだらねー家族しかいねーよ。」
私は、丸くなった答案用紙を手に取ると、両手で開いてシワを伸ばした。
「おめでとう。素晴らしいよ。こんな点数、私だってとったことないよ。頑張ったね。偉かったね。私は、すごく嬉しいよ。」
大野くんは、私の顔を見て、目をまん丸くしている。
「もっと喜ぼうか?」
「ばかじゃねーの?」
そういいながらも大野くんは、答案用紙をきちんと折って、もう一度ポケットにしまった。
「ほんと、うるせーし。」
「あ、ごめん。関わらない約束だったのに。」
「いちいち謝んじゃねーよ、教師だろうが?」
「あ、ごめん…あっ、やだ。」
思わずまた謝る私を見て、大野くんの表情が一瞬緩んだ。
口元を手で覆って、尖った目尻がキュッと下がる。
「あんた、思ったよりバカだな。」
「きょ、教師に向かってバカとはなによ!だいたい私がいつも怒られてるのは、あなたの…
そこまで言って、言葉をぐっと飲み込んだ。
「俺のせいだろ。だったらもう、俺には関わんなよ。」
大野くんは、カバンを掴んで肩に担ぐと、ドアに向かって歩き出す。
「もう暗くなるから、気をつけて帰ってね。」
私は、その背中に向かって声をかけた。
「ガキ扱いすんな。」
大野くんは、ドアをガンと蹴って振り向くと、
「あんたの男…他に女がいる。」
そう言い残して、教室から出ていった。
続く
…………
おはようございます。
短めですが、キリがいいのでこの辺で。
日常は、大変なことがたくさんありますよね。
私もいろんなことで、本当に大変な思いをしています(ー ー;)
が、お話を書いているときは、それらから離れて、素直に楽しめるので、今は書くことがストレス解消になっています。
みなさんも、いろいろ大変なことが多いと思いますが、
読んでいる間は、それを忘れて楽しんでくれていただけたら嬉しいです(^ ^)
今日も素晴らしい一日を!