会社恒例行事の花火大会。
新入社員は、花火が始まる前から場所取り。
私は、着なれない浴衣と、履きなれない下駄で、買い忘れた飲み物を調達しにきていた。
「おっもーい…しかも、動きにくいし、足も痛いし!
なんで私が、こんな…あー、もう、無理。休憩!内緒で飲んじゃう!」
プシュ!
ゴクゴク…
ぷはーっ!
うっまー!
「おい、何、勝手に飲んでんだよ?」
OHっ!NOーーーーーー‼
ブハッ!
いったん口にいれたものを、花火のごとくリバースして、猛烈に青ざめる。
み、見えなかった。
何でこんなとこに座ってんの?
「げっ!きったねーな、かかったじゃねーか。」
「ど、どどどしたの?」
大野は、別の買い出し部隊で、私より先に出ていたはず。
しかも、もうとっくに戻ってる時間じゃん!
「はぐれた。」
「はー?」
「ばーか、嘘に決まってんだろ?
俺、人混み苦手なの。」
「…苦手って、子供じゃあるまいし。」
私は、自分の帯に挟んでいたタオルを手にとって、大野に投げた。
「まだ、衿んとこ、濡れてる。」
「お前拭けよ。」
「はー?」
見ないように視線を外して、乱暴に拭き取ると、さっさとタオルを帯に挟んだ。
「はい。拭きました。チクんないでくださいませね!」
「お前、俺にそんな態度とっていいわけ?
それ、勝手に飲んだの、課長にチクるぞ。」
「ふざけないでよ、この荷物みて分かるでしょ?できません。」
「え?なっ‼」
大野は黙って立ち上がり、私の手から、膨れ上がったビニール袋を奪い取って、ニヤリとする。
「ほら、これでできんだろ?」
私は黙って大野を睨む。
「あー、課長!こいつがー!」
「え?」
焦って振り向くと、課長なんていないじゃない!
「ふふふ、だから、早くしろって。」
「もうっ!覚えとけよっ!」
私は、大野の衿元に手を伸ばす。
V字の隙間から覗く褐色の肌と、でこぼこした喉仏にドキリとして、手が止まった。
見ないように視線を外して、乱暴に拭き取ると、さっさとタオルを帯に挟んだ。
「はい。拭きました。チクんないでくださいませね!」
嫌味たっぷりに、わざと敬語で答えるのは、ドキドキしているのを隠すため。
「いや、それはどうかなー。」
「あ?な、なにをっ?」
大野は、私の手ごと掴んで、ビールの缶を口につけ、
ゴクリと一気に飲み干した。
「これで同罪。
…さ、戻るかー!」
伸びをしながら、大野はスタスタ歩き出す。
私は、手の中の缶を見つめて、呆然としていた。
…間接…キス…だよね、これ…
「おーい、なにしてんだー、早くしろー!」
はっとして、前を向けば、だいぶ先に大野がいる。
私は、空になった缶を袖にいれ、ドキドキする胸を抑えながら走り出した。
~end~
今朝は、ゆるめでやさしいショートストーリーを、皆様に。
今日も素晴らしい一日を!