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小説@「シンデレラの飛行機」〜「好きで好きで、どうしても好きで。」より〜

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「好きで好きで、どうしても好きで」より









空港に着いた私が、まず向かった先は展望デッキ。



空が見たかった。
最後の空を、ちゃんと覚えておきたい。



入口のドアが開くと、夕暮れ時の涼しい風が、私の髪とシャツの裾を揺らし、キーホルダーの鈴をチリンと鳴らしながら通り過ぎていった。



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陽はすでに傾き、オレンジ色の混ざった薄紫の空が、今日の日の終わりを告げようとしている。


数分ごとに上塗りされていく青が、次第に濃くなっていき、夜の闇へと変わっていった。


徐々に顔を出す無数の星。
ライトアップされた展望デッキ。


飛行機のエンジン音は、私を遠い昔へと導いていった。



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幼い私の笑い声。
温かな手のぬくもり。

お父さんとお母さんと、そして私。


鼻をかすめるオイルの匂いが、あの頃の記憶を呼び戻す。


戻れたら、いいのにな…。
何も知らなかったあの頃に…。

空を見上げれば、天の川にはうっすら雲がかかっていた。



時刻は、フライトの2時間前。
ちょうどあなたが、ライブを終える頃。

雲がかかったままの天の川。
せめて、織姫と彦星だけでも、会えたらいいのに…。

名残惜しげに空を見上げても、厚い雲はびくともしない。


もう、行かなきゃ。

後ろ髪を引かれる思いで、展望デッキを後にした。



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階下に降りると、カウンターには長い列ができている。

近くにいた係員にどうしたのかと尋ねれば、私のチケットを見るなり、すまなそうに頭を下げた。


「この飛行機は、機材の交換が長引いているため、フライト時刻が変更になります。」


その場で搭乗の準備が出来るまで待つか、早い時間の飛行機に振り替えるか、どちらか選択してほしいと言う。


私は、このまま待つと告げた。


もう少し空を見ていられる。

私は、長い列を飛び出し、もう一度展望デッキに戻った。



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さっきよりも人が増えている。

これからはじまる特別なライトアップを見るために集まった人たち。



私は、人混みから離れた場所に座り、空を見上げた。

雲はまだ幾重にも重なり、天の川を堰き止めている。





イベント開始のアナウンスが流れ、今あるライトが順に消えていくと、展望デッキは真っ暗になった。


空の星が、静かに主張し始める。
月も大きく輝いていた。


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しかし、どうしたって織姫と彦星の姿は見えない。

私は、残念に思って下を向き、「会いたいよ。」とつぶやいた。



その瞬間、
地面にふわっと現れた青い河。



私は、目を見張り、息を飲む。

展望デッキの中央を、青い光の粒がキラキラ流れていく。


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そこにいる誰もが、感嘆の声をあげた。


河の両側に別れて立つ男女が、楽しそうに手を繋ぎ、笑いあっている。

私は、ここに溢れる幸せそうな声に耳を傾けながら、ずっと空を見上げていた。

天の川にかかる頑固な雲は、なかなかそこを離れてはくれない。




風は、雨の匂いを運んでくる。

時刻は、23時を過ぎ、いつの間にか辺りは静かになっていた。


ここにはもう、私だけしかいない。


本当ならとっくに日本を飛びたって、天の川をまたいでいる時刻。

だけど、搭乗の準備が整ったとのアナウンスはまだ聞こえてこない。



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シャツの裾が、パタパタと音を立てる。

風に背を向け、ボタンを下までしめると、襟元をギュッと抑えながら、空を見上げた。



風が、強く吹いている。


今まで頑固にとどまっていた雲が、ゆっくり流れ始めていた。




そして、そのときが来る。

天の川を覆っていた分厚い雲のカーテンが、パッと開いて明るくなった。



「あっ…。」


紺青の空にちりばめられた無数の星が煌めく中、ひときわ輝く2つの星が見えた。


やっと会えたね…。


溢れる涙をこらえきれずに、手で顔を覆った。










そのとき、展望デッキのドアがパッと開いて、


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ボンッと押し出されるように人が現れた。


胸を抑え、ハアハアと荒い息のまま、足を引きずるようにして、青い河を挟んだ対岸に現れたのは、あなただった。




「…なんで…



あなたは、両ひざに手をやって、肩で大きく息をしながら、ゆっくり顔を上げ、私に言った。



「お前…こんなとこで…何やってんだよ。」



私は、少しも動けなかった。

夢か幻か、にわかには信じがたい光景に、何度も目をこする。

あまりのことに、心臓は止まっているんじゃなかろうか。




「…スターの俺に、こんなになるまで探させる奴なんか、

お前しかいねーよ…。」


皮肉げに微笑みながら、あなたは私へと手を伸ばす。


「ほら、こっちに来いよ。」


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あなたの手が、すぐ目の前にある。

青く縁どられたあなたの横顔が、あまりにも美しくて目をそらした。

金網越しに、滑走路に降り立つ飛行機が見える。




「どうして来たのよ…。」


私のつぶやきは、飛行機のエンジン音でかき消され、あなたには届かない。

焦れた心を抱え、躊躇する私の背中を、突風がポンッと押した。



足がよろけて、傾いた私の身体を、あなたの手がしっかりと受け止める。

そのまま有無を言わさず対岸に引き寄せられ、


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私は、天の川をまたいで、あなたの胸の中にいた。



「やっと…見つけた…。」


忘れようとしたあなたの温もりを、
忘れていない私の身体。


「俺が帰るまで待ってろって、言ったよな?」


私が小さく頷くと、

あなたは私の頭をぺチンと叩いて、もう一度強く抱きしめた。














……………



文字数の関係でこの辺にて。

「好きで好きで、どうしても好きで。」~シンデレラの飛行機~




少し書き直して、ブルームーンの夜にお届けしました(*^^*)




今日は、友達の見送りで羽田に行きました。

そこでブルームーンを見ました。

展望デッキにも久しぶりに行ったら、このお話が思い浮かんだの。

お話で使った写真も、全部今日撮ったものです。


綺麗でした(*^^*)







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