14歳
「金井の好きな奴って誰?」
叶哉に呼び出された屋上に続く階段は、人通りのない場所だった。
「昼休み、屋上んとこに、ちょっといい?」
叶哉の視線を合わさないで話す感じに、なんだかドキドキする。
あんなとこに私を呼び出すって、いったいどういうこと…。
いや、どういうっていうか、あれだよね、告白…かな。
えー、告白とか、やばい!
叶哉が彼氏とか…あー、もう、緊張する。
とりあえず、どうしよう、みんなにバレないようにしばらく黙ってたほうがいいよね?
トイレで前髪を直し、友達には職員室に呼ばれたって言って、誰にも見つからないように遠回りして、屋上まで続く階段についた。
一段ごとにドキドキが増して、何度も引き返そうと思いながらもあと少し。
階段を登りきった先に、叶哉がいた。
「ごめん、すぐだから。ちょっときて。」
手招きされて、踊り場の奥、少し窪んだ場所に行く。
「あのさ…。」
叶哉が、手で口元を覆って目を伏せた。
…沈黙。
こう見ると、叶哉って意外と綺麗な顔してる。
背は、まだ私と同じぐらいだけど…。
「金井の好きな奴って誰?」
…!
ドキドキしながら叶哉の前に立ったのに、思ってもいなかった言葉。
「金井?」
「お前の親友だろ?知らねーの?好きな奴。」
「あ、ああ、けいちゃん?」
「そう。誰?金井の好きな奴。」
「なんで、叶哉に教えなきゃなんないの?」
叶哉の顔がみるみる赤くなる。
こいつ、照れてる。なんで?
「お前、誰にも言うなよ。」
嫌な予感…。
「俺さ、金井が好きなんだよ。今度の林間学校の班、金井と同じになったじゃん、あ、お前もだけど。…告ろうかと思ってさ。でも、好きな奴とかいたら悪いし。」
…‼︎
…ていうか、叶哉のくせに、何もじもじしてるわけ?
真っ赤になっちゃってかっこ悪い!
「お前、知ってんだろ?昨日、金井とそんな話してたじゃん、誰が好きとかなんとか。」
確かにしたよ。
芸能人なら誰がタイプとか。
「ってか、聞いてたの?」
「お前の声がでかいから、聞こえたんだよ。…そんとき、金井が好きな奴いるって言ってた。」
けいちゃんに、叶哉が言うような好きな人はいない。
好きなのは漫画の…。
「…まさか、俺じゃないよな?」
叶哉は、無駄に喜んでいる。
なんか、むかつく。
「違うよ、叶哉じゃない。」
「だよなー、誰だよ、俺が告って見込みあるかだけでも教えろよ。」
なんでそんな真剣な顔するの?
チビであほなくせに。
「知らない。つーか、ばかじゃねーの!キモッ!」
「って、なんだよ、お前最低だな。
こっちは真面目に話してんのに。お前なんかに好かれる男は、超最悪。
もういい、お前に聞いたのが間違ってた。」
叶哉は、チャイムとともに去っていった。
カンカンカンって遠ざかる上履きの音。
私は階段に座り、おでこを膝に押し当てた。
…私、バカみたい…。
叶哉とけいちゃん…付き合うのかな…。
林間学校行きたくない…。
なんだよ、叶哉のくせに…。
好きな人が自分の親友を好きだと知って、初めてヤキモチを妬いた14歳。
…………
このお話はこんな感じで、瞬間を追っていくお話で、直接は続きません。