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小説@「チャコの雪物語」〜Magic of snow~④

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一つ前のお話③へは、ここをクリック









…………






雪の中、背中を丸めてチャコを抱きしめながら、サンタクロースに願った。


何回こうやって願ったかわかんねーけど、それでもやっぱり願うんだ。





「会いてーよ…チャコ。」



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陸人は、小学校入学と同時に今の家に引っ越してきた。


1学年1クラスずつしかないので、クラス替えはなし、地元の子供たちばかりの小規模校。



よそから転校してきた陸人は、緊張しいで不器用な性格もあってか、なかなか打ち解けられずにいた。
 


そんな陸人をいつも気にかけてくれたのが、隣の席の「千夜子(ちやこ)」。

みんなからは「チャコ」と呼ばれていた。




千夜子は、女の子なのに珍しく、地元の少年野球チームに所属していた。


だから、髪はずっと短くて、1年生の途中からかけ始めたメガネは、後ろがゴムで繋がったスポーツメガネを選んでいる。


肌は年中真っ黒で、服はズボンしかはかないし、背も、6年生までずっと、陸人より高かった。




『気にしない気にしない。陸人が頑張ってること、私はちゃんと知ってるよ。頑張っていれば、必ず結果がついてくるから。ね、だから次も一緒に頑張ろ。』



努力しても失敗ばかりの陸人のことを、千夜子はちゃんとわかっていて、いつも励ましてくれた。




陸人にとって、千夜子は一番の友達。

千夜子にどれだけ勇気付けられたかわからない。



4年生になった頃、陸人は千夜子ばかりが気になって、どうにも心が落ち着かなくなった。



それが初恋だと気付いたのは、5年生の時。


自分の気持ちに気付いても、好きだと伝える勇気など、このときの陸人にはない。


このまま中学も一緒なんだし、いつかそんな日が来たらいいなと、12歳の陸人は漠然と考えていた。





5年前の、あの雪の日までは。

 



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あの日…



陸人の頬に顔を寄せた茶色のネコは、千夜子が最近飼い始めた「チャコ」だった。


自分と似ているから、同じ名前をつけたのだと言っていた。








チャコを探して空き地に現れた千夜子。


チャコが、陸人の腕の中にちょこんと収まっている様子を見て、千夜子はホッとした表情を浮かべる。




陸人は、チャコを返しながら、雪で遊ぼうと千夜子を誘った。


いつもならノリノリで誘いに乗ってくれる千夜子が、なんだかおかしい。





『私、遊びに来たんじゃない。陸人に話があってきたの。』



言葉一つ聞くたびに、陸人は、心臓をぎゅっと絞られるみたいに苦しくなる。


いつもと違う千夜子の様子に、陸人はとても緊張した。





『陸人…あのね、私、病気なんだって。こんなに元気だけど、病気なんだって。

でも、それを治療できる病院が、ここにはないんだって。

だから、病院の近くに引っ越すんだって。ずっと遠くに行くんだって。』



陸人は、巨大なハンマーで強く頭を殴られたような衝撃を受けた。

身体が動かない。うまく息もできない。





『ね?聞いてる?』



千夜子の声は、震えている。



『私、頑張るから、陸人も頑張って。ちゃんと頑張れば、きっと結果がでるから。

約束しよう、陸人。
お互い、何があっても信じて頑張るって。諦めないって。
私、ちゃんと約束するよ。』




陸人は、頷くのが精一杯だった。



『治ったらちゃんと迎えに来るから、それまで陸人が預かってて。』



千夜子は、陸人の腕の中にチャコを放して微笑んだ。


目を離すとすぐにどこかに行ってしまうからと、小さな鈴と一緒にチャコを放した。








それから先は、よく覚えていない。


目の前がちゃんと見えるようになったときには、陸人の前に千夜子はいなかった。


 
陸人の手には、小さなチャコと、小さな鈴が残った。





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その夜、陸人は短冊を書いた。



数ある神様の中で、サンタクロースを選んだのは、今までずっと、頼めば必ず陸人の願いを叶えてくれたから。


陸人にとっては、100パーセントの神様だった。



友達の間で、サンタクロースはいないんじゃないかと話題になったとき、千夜子は言った。


『疑うより、信じる方が、楽しいよ。』



千夜子の言う通りだ。


いないと疑うより、いると信じる方が、クリスマスは楽しくなる。


全てにおいて、そう考えられるようになったのは、千夜子のおかげだ。






もう、ゲームも新しい自転車も、何もいらない。

服も靴もこのままで構わない。




12歳の陸人の願いは、ただ一つ。


『元気なチャコにもう一度会うこと。』



陸人は、千夜子の病気がちょっとだけ大変な病気だと母親から聞いていた。


治療しても、完璧に元気になれるかはわからないってことも。


でも、可能性はゼロじゃない。





クリスマスに雪が降るというのは、この地域では奇跡に近い。


それでも、可能性はゼロじゃない。


千夜子のことも、クリスマスに雪が降ることも同じことだ。


ゼロじゃないなら、信じて諦めない。




だって、千夜子は言ってたから。


頑張れば、必ず結果は出るって。
疑うより信じようって。



千夜子もきっと、信じて頑張っているはずだから。





陸人は、願いを込めて、短冊を書いた。




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そして5年後、

クリスマスに雪が降った。




 






⑤に続く













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