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小説@「チャコの雪物語」〜Magic of snow~⑤

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一つ前のお話。


小説@「チャコの雪物語」~Magic of snow~④はこちら











…………









『この地域で雪が降ったのは、60年ぶりなんだって。だから、次に降るとき、お母さんは見られないかもしれないわ。』



陸人が千夜子と別れて、1人肩を落として帰ってきた5年前の雪の日。



玄関で迎えた母は、陸人の髪に積もった雪を払いながら、そう言って微笑んだ。




『ここで雪なんか降るわけないって、みんな言っていたのにね。こうして奇跡みたいに降ることもあるのね。』




陸人は、母の言葉には応えなかった。



『今日みたいな日ってね、お母さんは奇跡の日だと思うの。そんな日の約束や願いは、きっと叶うんじゃないかって思うの。』



母は、陸人の腕から「チャコ」を優しく抱き上げた。



『陸人…千夜子ちゃんは、きっとこの子を引き取りに来るわ。もしそれが、クリスマスに雪が降るぐらいの確率だったとしてもよ。
だって、今日は、奇跡が起こった日なんだから。』



陸人は、顔を上げる。
母は、いつものように笑っていた。



『お母さんも一緒にお願いするわ。それから、千夜子ちゃんに負けないぐらいお母さんも頑張るわ。
みんなで力を合わせて、またここに 雪を降らせてみようね、陸人。』










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雪は、想いを乗せて静かに降りてくる。



「会いてーよ…チャコ。」





すると、陸人の腕の隙間から、チャコがひょこっと顔を出し、「ニャーン」と鳴いた。まるで返事をするみたいに。



「ったく、お前じゃねーって。

あっ!おい、こら、待てっ!」




チャコは、陸人の腕をするりと抜けて飛び出すと、来た道を真っ直ぐ走り出す。



「こら、どこ行くんだよ、待てってば!」




陸人は、雪に足を取られながら必死に追いかけるが、

チャコは素早く雑木林をくぐり抜け、あっという間に見えなくなった。




「なんだよ、チャコ…お前までいなくなるのかよ…今日は、奇跡の日じゃねーのかよ…くそっ!」



陸人は、立ち止まって雪を蹴る。

そして、チャコが見えなくなった雑木林に向かって大声で叫んだ。





「帰ってこいよ、チャコーー!」









陸人の声を飲み込むように強い風が吹き、雪が巻き上がる。


陸人は手をかざし、目に飛び込んでくる雪を避けるようにしながら、チャコの行方を辿るように雑木林を見た。







チリン…




風に乗り、微かに聞こえる鈴の音。


陸人は、自分のカバンについている鈴を確認するように指でつまむと、カバンのポケットに突っ込んで、音が出ないようにした。






チリン…




「やっぱり聞こえる。向こうか?」



陸人は、鈴の音に耳を澄ませ、煙る雑木林に目を凝らした。






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靄の中、遠くに人影を見つけてドキンとする。



雪のように真っ白なダウンジャケット。

毛糸の帽子を深くかぶり、ゴーグルをしているように見える。







「…いや、違う。あれはゴーグルじゃねー…。」



あれは、見覚えありすぎるスポーツメガネだ。

あんなのしてる女なんか、一人しか知らねーし!





胸がざわめく。


もしかしてという期待と違っていたらという不安が混ざりあって、息が詰まり身体は動かない。



それでも人影は、陸人に向かってゆっくり歩いてくる。



一歩、また一歩。


雪を軋ませ歩く姿は、真っ直ぐこっちを向いていた。




本当なのか、夢なのか…


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触れたらまた、消えてしまうのか…




戸惑いながらも目が離せない。





チャコを胸に抱いて歩く姿が、陸人の目にハッキリうつった時には、身体中汗びっしょりになっていた。









あと三歩。




二歩。





見慣れたスポーツメガネの女の子は、陸人の前で静かに歩みを止めた。



二人同時に息を吐く。

白い煙は重なり合って、静かに消えていった。



言いたいことがたくさんあるのに、何から話していいのかわからない。




「ニャーン」



沈黙を破るように、チャコが鳴いた。

首には、小さな鈴がついている。



「だから…だから、言ったでしょ?目を離すと、すぐにどっかに行っちゃうって。
だから…ちゃんと鈴、付けておかないとダメだよ。
ほら、こうしてつけておけば、どこにいるかすぐわかるから。」




「あの鈴は…。」


陸人は、カバンのポケットに突っ込んであった鈴を引き出してみせた。



「俺のカバンについてる。」



「えっ、なんで…?」





「チャコがいつ戻ってきても、俺をすぐ見つけられるように。」






千夜子は、頷きながら俯いた。


ぎこちない空気に、胸が苦しくなる。




「あ…の、このスポーツ用のメガネ…ゆ、雪の時も役立つんだよ…。」




「…うん。」




「…背…大きくなったね?」



千夜子の声を聴くたびに、心臓がぎゅっと絞られる。



「…うん。」






「5年前は、私の方が大きかったのにね。」



「…うん…

…ていうか…。」



「ていうか…?」






「下 向いてないで、



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俺に、ちゃんと顔 見せろよ。」









千夜子は帽子を取った。


てっきりショートカットだと思っていた千夜子の髪がくるりとほぐれ、白いダウンジャケットの上にふわっと広がる。


チャコが、千夜子の髪に手を伸ばして遊びはじめると、柔らかそうな茶色い髪が、雪を纏ってキラキラ輝いた。




「マジか…。」



ショートカットの千夜子しか知らない陸人は、見慣れぬ姿を前にして急に落ち着かなくなる。




「あれからずっと伸ばしてた。治るまでは絶対に切らないって決めて…ね。
願掛けみたいなもの。」



そして、千夜子は「ちょっと恥ずかしいけれど」と言いながら、スポーツメガネを外した。


黒目がちな丸い瞳が現れる。





陸人は、ああっ!と叫びそうになって飲み込んだ。

その顔は、夢の中で見た千夜子とそっくりだったから。





「マジかよ、ふざけんな…やっぱり、これも夢なのかよ?」


陸人は思わず後ずさり、両手で顔を覆った。












⑥に続く。








ツイよりお声がけありがとうございました。

すぐにできないときもありますが、出来るかぎりお返しさせていただきます。



tomoe


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