妄想小説@「愛念」①はコチラ
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初めていらした方は、第一話から読んでみてくれると嬉しいです(´∀`)
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その日の夜、8時過ぎにインターフォンが鳴った。
「はい。」
「あ、俺…。」
先輩?
私は急いでドアを開ける。
スーツ姿の先輩…なんか…ドキンとしてしまう。
「ど、どうしたんですか?」
「いや…その…また…風呂…はさすがにダメだよね?」
「あー…そっか、まだガス…。」
「ああ…今仕事から帰ってきて、このまま寝ようとも思ったけど…かといって、風呂屋とか探す元気もねーし…、で、来てみた。」
「…ダメって言ったらお風呂入んないで寝ちゃうんですか?」
「んま~、そう言うことだな…。」
「明日も会社ですよね?」
「ああ。」
「くさいと嫌がられますよ。」
「…だから…こうして来てんじゃん。」
「でも、もう遅いし…。」
「だよな…ごめんな…やっぱいいや。」
そう言って、智先輩は帰ろうと後ろを向く。
私は思わず、ジャケットの裾を掴んで言った。
「あ…どうぞ…使ってください…。」
なんか緊張して、すっごい小さな声の私。
先輩が振り返る。
「えっ…?マジで?いいの?」
「…はい…。」
「ありがとう、ナナ。」
そう言って、いつものあの笑顔。
ああ、ダメだ、その顔、反則。
「上がってください。」
私は先を歩いて部屋に入った。
先輩が後に続いて、部屋に入ってくる。
「とりあえず、そこ座っていてください。今お湯いれますから。」
「ああ、ありがと。」
私はテーブルにお茶を置いて、バスルームに向かった。
はあ…めちゃくちゃ緊張する…
心臓がドッキドキだよ…
今日はずっと先輩のことを考えていたから…
バズタブにお湯をためながら、先輩のことを想う。
スーツ…すごくかっこいいんだもん…やだな…
それに…くさいとか言っちゃったけど…ほんとはすごくいい匂いがした…
あ~、もう、どうしよう…
心臓がおさまんない…
何度か深呼吸をし、頬をぺチンと叩いて、部屋に戻った。
カチャ…
先輩を見れば、ジャケットを脱いで、ネクタイをはずそうとしていた。
指先に目が行ってしまう。
もう、ずっと見続けていたあの指。
絵を描いているときの指先が、パッと脳裏に浮かんだ。
大好きだったんだ…あの、ペンの下の方を握る指。
「おい、ナナ?どうした?」
袖口のボタンをはずしながら、私の方に歩いてくる。
「…あ、え、いや…なんでもないです。」
「お前、もしかしてもう眠いとか?」
「眠くないですよ、もういい大人なんですから!」
「あ、大人ね…ふふっ、そうだな、あんとき「ラブテクニック」を愛読してたもんな!」
「えっ、あ…やだ…なんで覚えてるんですか、も~!やめてくださいよっ!」
「ふふっ、あの本、キョーレツだったよな~!」
「もう、いい加減にしてください、怒りますよ!私、お風呂見てきますからっ!」
私は怒った声でそう言って、もう一度バスルームの様子を見に行こうと背を向けた。
「待てよ。」
先輩が私の腕をグイッて掴んだ。
「からかってごめんな。」
…あ…あの時と…同じだ…
「怒んないで。お詫びに…今日は送れないから…何すればいい?」
先輩の顔は真剣で、もうそれだけで心臓が爆発してしまいそうだった。
「お前が怒ると…なんか、いやなんだよ…なんかしてほしいこと、ないか?」
「え…あ、い…いや、そんな…いいです…。」
「そっか…俺は、お前にしてほしいこと、たくさんあるんだけどな…。」
そう言って、私の腕を掴んでいた手を、ゆっくりと離した。
「あ、お風呂…見てきます。」
私はバスルームに逃げ込んだ。
心臓のドキドキをおさめるのに必死だった。
結局、お湯が溜まりきるまでバスルームにいた。
心臓のドキドキもようやく落ち着いたので、部屋に向かった。
「お風呂、沸きましたよ。どうぞ。」
ドアを開けながらそう言うと、床の上で先輩の姿を見つけて驚いた。
…先輩、寝てる…
そっと近づくと、カーペットの上ですやすや寝息を立てていた。
…どうしよう…起こす?それとも、このままにしておく?…
寝てる先輩の隣に座って、しばし考える。
…寝顔…可愛いな…
胸がキューンとなった。
それと同時に、おさめた鼓動が、また加速していく。
指先が…勝手に動いて、先輩の髪に触れた。
…柔らかい…
指先に心臓があるみたいで、身体中が熱くなる。
そのまま頬へ手を当てた。
手から伝わる温かさが、身体の芯を揺さぶった。
私は小さな声で、寝ている先輩に向かって言った。
「先輩…会いたかったよ…。」
えっ…
頬に当てた手の上に、先輩の手が重なる。
パチンと開いた瞳で、私を見る。
「俺も…会いたかった…。」
思考回路がフリーズする。
「ナナ…ずっと会いたかった…。」
私を見上げる先輩の目に、吸い込まれそうになる。
「なんとか言ってよ。」
何か言おうと思っても、口がパクパク動くだけで、声が出ない。
「ふふっ、ナナは、金魚か?」
そう優しく微笑むと、ゆっくりと起き上がって、私に向き合って座る。
「お前、昔と全然変わってないな。」
私の頭に手を乗せて、そっと髪を撫でてくれた。
そのまま、私の頬に手が触れる。
「この、大福みたいなほっぺたも、5年前のまんまだな…。」
そう言って、むぎゅっと軽くつまんだ。
「や、やめてくださいって…もう…。」
目が合わせられない。
身体中が心臓になってしまったみたい。
全身に響く心臓の音。
何を話していいかわかんない。
私は下を向いた。
「ねえ、こっち向いて。」
そう言って、顎にかけられた指で、先輩の方を向かされた。
ドッキーン
もうダメだ、先輩の目が私を見てる。
涙が勝手に溢れて、視界が滲む。
「ナナ…
私の名前を呼ぶ声が優しくて、自然と涙がこぼれた。
「お前…なんて顔してんだよ、バーカ。」
先輩は大きく息を吐いて、私の顎の下に添えていた手を離した。
そして、私の頭をくしゃくしゃっとかき回して立ち上がった。
「風呂、借りるな。」
そう言って、バスルームに向かっていった。
私はもう脳みそがオーバーヒート。
心の準備ができていないまま、スカイダイビング状態。
とりあえず、お茶を飲んで、大きく息を一つ吐いた。
バスルームから聞こえるシャワーの音が、やけに大きく耳に響いていた。