こんばんは。
今は下げていて読めないお話「君ヲ想フ」…もっと雅紀くんとのお話を読んでみたいとリクエストがありましたので、雅紀くんの誕生日なので、一話だけあげますね。
赤い糸とは違った感じですが、よろしければ読んでみてくださいね。
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今夜、俺は人柱として、マサキの代わりにこの世からいなくなる。
儀式は深夜、月が頂点に達したとき。
陽が昇ると同時に行われるからと、マサキには偽の時刻を教えた。
明日の朝、マサキが身を清めてここに来たときには、すでにその儀式は終わっているはずだ。
俺と兄弟のように育ってきたマサキ。
隣にいることが当たり前の、かけがえのない存在。
俺とマサキの違うところ。
それは家族。
俺には親も兄弟もいない。
だけど、マサキには、幸せな家族がいる。
人柱にマサキが選ばれた瞬間から、マサキの代わりに自分が行こうと決めていた。
あいつをこの世から消してしまうなんて、絶対にできない。
たとえそれが、神に逆らうことになろうとも。
この川は、雨が降ると大きく氾濫し、そのたびに村を飲みこみ、多くの犠牲者を生んだ。
そこで、頑丈な堤防を作ることとなった。
堤防に人柱を立てれば、神の力を得ることができる。
若く美しい、健康な男子。
マサキに白羽の矢が立った。
人柱に選ばれれば、逆らうことはできない。
前日のみ家に帰ることを許され、そこで身を清めて儀式に臨む。
俺は、儀式をつかさどる神官から開始の時間を聞き、それを伝えに行く役を志願した。
儀式のときに着用する衣服も、一緒に届けに行く。

マサキの家に着けば、食事の真っ最中だった。
「あっ、サトシ!早く入って。」
明るく出迎えてくれたマサキ。
マサキの家族は泣いていた。
必死で皆を笑わせようとするマサキ。
俺もマサキと一緒に、マサキの家族を笑わせた。
いつも明るくて、みんなを笑顔にすることができる、俺はそんなマサキのことが好きだった。
家族の皆と別れて、マサキと二人になった。
こうして並んで話すのもこれで最後かと思うと、胸がいっぱいになる。
マサキに儀式の時刻と衣服を渡した。
身を清めてから、この衣服をまとい、顔にも布を巻き、肌の露出は右の目だけだということを伝える。
マサキは分かったと頷くと、俺を強く見つめて、ゆっくりと噛みしめるように話しはじめた。
「サトシ、俺がいなくなったら、俺の家族を頼む。サトシが俺の代わりになってくれ。頼む。」
そう言って、深く深く頭を下げた。
「サトシ…俺…俺は…
マサキはそこまで言って、俺を抱きしめた。
声を殺して泣いているのが分かる。
俺は、マサキの頭を黙って撫で続けた。
マサキの体温をずっと覚えていたかった。
月が昇り、頂点に達するまであと数時間。
「マサキ、そろそろだ…。」
俺はマサキの身体から離れ、サヨナラを言った。
「…生まれ変わったら、必ずサトシを探すから!」
「俺も、必ずマサキを探す。」
この世から消えゆく俺が、マサキのことを好きだと告げることなど、決してできなかった。
急いで家に帰り、身体を清める。
真っ白な布に身体を包み、露出は右目のみ。
俺が雅紀の代わりになっていることなど、だれにも分かるはずがない。
月の位置を確かめて、俺は儀式の場所に向かった。
俺が到着するや否や、すぐに儀式が始まった。
露出していた右の目も塞がれ、もう何も見えない。
神官の祈りの後、地面に掘られた穴にゆっくりと収められた。
目を瞑る。
マサキの顔が浮かんだ。
祈りの声が一層大きくなる。
ドサッと土がかけられた。
徐々に身体が埋まっていく。
マサキのことだけを思っていた。
幸せになってくれ。
そう祈りながら、次第に意識が遠のいていった。
サヨウナラ…マサキ…
朝日が山の端に顔を覗かせる。
ザザッ
土が盛られたその場で、立ち尽くすマサキ。
拳を震わせ、唇を噛みしめる。
身体を翻し、サトシの家に向かう。
ドアを乱暴に明け、家の中に入ると、机の上に手紙が置いてあった。
恐る恐るその紙を開けば、美しく澄んだ文字でこう書いてあった。
ー――― マサキ 幸せになれ ー―――
「サトシ…なんで…なんでだよ…
マサキはその手紙を握りしめ、声をあげて泣いた。
マサキの心には、穏やかな優しいサトシの思い出が蘇ってくる。
もっとずっと一緒にいたかった。
ちゃんと好きだと言えばよかったと、マサキは後悔した。
マサキもまた、サトシのことを愛していた。