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妄想小説@雪の彼方~Byond the snow~(大野智)

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雪の日に、私は生まれた。


彼は、小さな雪の玉を二つ重ねて、「ユキ」と名付けてくれた。




photo:04




「俺の部屋に連れてってやるよ。」



そう言って彼は、自分の部屋のベランダに、私をそっと置いてくれた。



彼の愛情が、私の姿を変えた。




ソファで眠る彼の元へ、そっと歩み寄る。


フーーーッと息を吹きかける。


私は、あなたの彼女…そう暗示をかけた。



私は、部屋の暖房を切った。


こんなに暑くては、身体がもたない。

しばらく使えないように、リモコンを隠す。






「…さむっ!」


彼が目を覚ました。


私の姿に気付くと、優しい笑顔になる。



「なんだ、ユキ、来てたのか?」


「…うん。」



「この部屋、寒くないか?」


「…そう?」



彼は暖房のリモコンを探すが見当たらない。

ごめんね、私が隠したから。


もう少しだけ、このままでいてね。



「うん…でもいいや、ユキが来てくれたから…こっち来て、俺をあっためてよ。」



彼は、私に手を伸ばして、抱き寄せる。


「…ユキの身体、すごく冷たい。」



「…あ、うん、今来たばっかりだから…外、雪が降ってて…。」


「そっか。じゃあ、俺があっためてあげる。」



「あ、うん…。」



私の手を握って彼は言う。


「手も冷たい。」


はあっと息を吹きかけ、温めてくれた。



「…あ、もう、そのくらいで…大丈夫だから…。」


私は、そっと手を引く。

これ以上あたためられたら、指先が溶けてしまうから。



彼のそばにいると、熱くてたまらない。

これじゃあ、すぐに溶けてしまう。



「脱いでいい?」


「なんだ?ユキ、大胆だな?」



「あ、そういう意味じゃあないんだけど…。」




「風呂は?」


「あ、いい、いい、絶対入らない!」



「なんだよ?そんなに風呂嫌いだったっけ?」


「あ、いや、そうじゃないんだけど…。」



「ん、まあ、いいや。おいで、脱がせてあげるから。」



キュッと引き寄せられて、ソファにゆっくり倒される。

白のワンピースに手がかかり、そっと外されていく。



photo:02





「それにしても、薄着だな…こうなることを考えて、敢えて着てこなかったのか?」



「ちっ、違うよっ…ただ、熱くて…。」


「照れんなよ。かわいいやつ。」




彼は私の唇に、そっと唇を重ねた。


「…冷て~っ…。」



唇を離し、熱い吐息とともに、囁いた。



「今、あったかくしてやるからな。」




彼の熱さに、身体が溶けていく。


全身から溶けだした水が、ソファを濡らした。






「ユキ、こんなになって…。」


彼は、一層身体を熱くする。



もう、ダメ…溶けてなくなってしまう…


あまりの熱さに、気を失った。







熱い…熱いよ…


ハッと目を開けて、自分を触ってみる。

よかった、かろうじて人の形をしているみたい。



…なんだか焦げ臭い…



私の手を握ったまま、隣で眠る彼。


そっと手を離して、身体を起こせば、目の前の事態に身体が震えた。



彼が部屋を暖めるためにつけたストーブの火が、カーテンに移って燃え広がろうとしている。



「なんか…臭くないか?わあっ!」


彼も匂いに気付いて身体を起こした。



「水!水持ってこなきゃ!」


彼が急いで、キッチンに向かう間にも、火はチリチリと広がっていく。




「こっちに来て!早く!」


私は彼を呼んだ。


彼が、コップを持ったまま走ってくる。



「…ありがとう。会えて嬉しかった。ずっと忘れない。さようなら。」



驚いた顔をした彼の顔に、フ――――っと息を吹きかけた。


私のことを、全て忘れる暗示をかける。




そして、私は火の中に飛び込んだ。


私の身体が溶け、カーテンの火は消えた。












「危なかった~…。」





焦げたカーテンの裾を見ながらつぶやいた。


しかし…なんで消えたんだろう。


俺の持ってるコップには、水なんか入っていないのに。




ドサッとベランダから音がした。



窓を開けると、俺が作った小さな雪だるまが、溶けて崩れて落ちていた。



朝になり、もう雪は やんでいる。


溶けた欠片を手に取って、キュッと握りしめる。



指の間から、ポタポタとしずくが落ちた。


まるで手の中で、雪の欠片が泣いているようだった。




「ユキ…?」



俺は空を見上げた。




photo:03





たった一つ、ふわふわと舞い降りてくる雪のつぶ。



それは、俺の唇の上に、ふわっと降りてゆっくり溶けていった。











-END-








・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


深夜にアップしてスイマセン。

なんとなくこのお話は、夜に上げたかったので。



今オリンピックを見ながら書いていました。


いつの間にかこんな時間(°Д°;≡°Д°;)


さすがに寝よう…




よろしかったらお気軽にどうぞ。


「愛念」蒼月ともえ


PC  http://www.berrys-cafe.jp/pc/reader/book.htm?bookId=984608&c=n

スマホ http://www.berrys-cafe.jp/spn/reader/book.htm?bookId=984608&c=n

「愛念」トップページにある、私の名前をクリック(タップ)すると、ここにしまってある、他のお話も読めると思います。


いつもありがとう。

感謝しています。





tomoe












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