雪の日に、私は生まれた。
彼は、小さな雪の玉を二つ重ねて、「ユキ」と名付けてくれた。
「俺の部屋に連れてってやるよ。」
そう言って彼は、自分の部屋のベランダに、私をそっと置いてくれた。
彼の愛情が、私の姿を変えた。
ソファで眠る彼の元へ、そっと歩み寄る。
フーーーッと息を吹きかける。
私は、あなたの彼女…そう暗示をかけた。
私は、部屋の暖房を切った。
こんなに暑くては、身体がもたない。
しばらく使えないように、リモコンを隠す。
「…さむっ!」
彼が目を覚ました。
私の姿に気付くと、優しい笑顔になる。
「なんだ、ユキ、来てたのか?」
「…うん。」
「この部屋、寒くないか?」
「…そう?」
彼は暖房のリモコンを探すが見当たらない。
ごめんね、私が隠したから。
もう少しだけ、このままでいてね。
「うん…でもいいや、ユキが来てくれたから…こっち来て、俺をあっためてよ。」
彼は、私に手を伸ばして、抱き寄せる。
「…ユキの身体、すごく冷たい。」
「…あ、うん、今来たばっかりだから…外、雪が降ってて…。」
「そっか。じゃあ、俺があっためてあげる。」
「あ、うん…。」
私の手を握って彼は言う。
「手も冷たい。」
はあっと息を吹きかけ、温めてくれた。
「…あ、もう、そのくらいで…大丈夫だから…。」
私は、そっと手を引く。
これ以上あたためられたら、指先が溶けてしまうから。
彼のそばにいると、熱くてたまらない。
これじゃあ、すぐに溶けてしまう。
「脱いでいい?」
「なんだ?ユキ、大胆だな?」
「あ、そういう意味じゃあないんだけど…。」
「風呂は?」
「あ、いい、いい、絶対入らない!」
「なんだよ?そんなに風呂嫌いだったっけ?」
「あ、いや、そうじゃないんだけど…。」
「ん、まあ、いいや。おいで、脱がせてあげるから。」
キュッと引き寄せられて、ソファにゆっくり倒される。
白のワンピースに手がかかり、そっと外されていく。
「それにしても、薄着だな…こうなることを考えて、敢えて着てこなかったのか?」
「ちっ、違うよっ…ただ、熱くて…。」
「照れんなよ。かわいいやつ。」
彼は私の唇に、そっと唇を重ねた。
「…冷て~っ…。」
唇を離し、熱い吐息とともに、囁いた。
「今、あったかくしてやるからな。」
彼の熱さに、身体が溶けていく。
全身から溶けだした水が、ソファを濡らした。
「ユキ、こんなになって…。」
彼は、一層身体を熱くする。
もう、ダメ…溶けてなくなってしまう…
あまりの熱さに、気を失った。
熱い…熱いよ…
ハッと目を開けて、自分を触ってみる。
よかった、かろうじて人の形をしているみたい。
…なんだか焦げ臭い…
私の手を握ったまま、隣で眠る彼。
そっと手を離して、身体を起こせば、目の前の事態に身体が震えた。
彼が部屋を暖めるためにつけたストーブの火が、カーテンに移って燃え広がろうとしている。
「なんか…臭くないか?わあっ!」
彼も匂いに気付いて身体を起こした。
「水!水持ってこなきゃ!」
彼が急いで、キッチンに向かう間にも、火はチリチリと広がっていく。
「こっちに来て!早く!」
私は彼を呼んだ。
彼が、コップを持ったまま走ってくる。
「…ありがとう。会えて嬉しかった。ずっと忘れない。さようなら。」
驚いた顔をした彼の顔に、フ――――っと息を吹きかけた。
私のことを、全て忘れる暗示をかける。
そして、私は火の中に飛び込んだ。
私の身体が溶け、カーテンの火は消えた。
「危なかった~…。」
焦げたカーテンの裾を見ながらつぶやいた。
しかし…なんで消えたんだろう。
俺の持ってるコップには、水なんか入っていないのに。
ドサッとベランダから音がした。
窓を開けると、俺が作った小さな雪だるまが、溶けて崩れて落ちていた。
朝になり、もう雪は やんでいる。
溶けた欠片を手に取って、キュッと握りしめる。
指の間から、ポタポタとしずくが落ちた。
まるで手の中で、雪の欠片が泣いているようだった。
「ユキ…?」
俺は空を見上げた。
たった一つ、ふわふわと舞い降りてくる雪のつぶ。
それは、俺の唇の上に、ふわっと降りてゆっくり溶けていった。
-END-
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深夜にアップしてスイマセン。
なんとなくこのお話は、夜に上げたかったので。
今オリンピックを見ながら書いていました。
いつの間にかこんな時間(°Д°;≡°Д°;)
さすがに寝よう…
「愛念」蒼月ともえ
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いつもありがとう。
感謝しています。
tomoe