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妄想小説@「たぶん好き、きっと好き、もっと好き。」②(大野智)

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第二話









もう、大丈夫かな…。



深く眠りについた大野くんから、静かに離れて部屋の中を見回した。


何か、掛けるものはないかと探したが、この無駄なものを排除した殺風景な部屋には、それらしいものは見当たらない。




他の部屋に勝手に入るのは気が引けるし、とりあえず、私が着ている長めのカーディガンを脱いで、そっとかけてみる。



私にしては大きめのカーディガンが、大野くんの上に掛けるとすごく小さくて、それだけで心が揺れた。



やっぱり、好き…。



揺れる心を何とか抑えようとしても、身体の奥から溢れてくる。


大野くんの唇が、やけに赤く見えた。



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さっきのキスを、思い出さずにはいられない。


甘く囁きかけてくるような、優しいキスは、身体の中が、ドロドロに溶けてしまうくらい、私の中を掻き乱していった。






静かな部屋に、カチカチと鳴る時計の秒針。


私の鼓動は、いとも簡単にそれを追い抜き、さらに加速していく。




はあ…と一つ息を吐く。





ソファーからこぼれ落ちた大野くんの手を戻そうと、両手でそっと握った。


熱が、両の手のひらを通じて、真っ直ぐに伝わってくる。




ここに来たときは、「たぶん」だった気持ち。


それが、はっきりとしたものになり、そして今は、大野くんのことをもっと好きになろうとしていた。







ソファの横に膝をつき、汗でおでこに貼りついた、柔らかな前髪との間に手を忍ばせて、空いた片方の手は自分の額に当てながら、お互いの熱を比べてみる。



ああ、まだこんなにも熱い。

心配…。


熱が下がるまでは、そばに居たい。



けれど、このままここにいるのもなんだかよくない気がして、この先の行動を決めかねていたそのとき、私の携帯が鳴りはじめる。




起こしてしまっては元も子もないと、急いでバックから取り出してみれば、大野くんと同期で、同じく後輩の篠原くんだった。

 

篠原くんも、私と同様に上司に言われ、今日ここに一緒に来るはずだった。


けれど、急な仕事が入って行けなくなり、今もまだ会社で残業中とのこと。



「ところで、郁さん、今どこですか?」


「どこって…



私は大野くんの顔をチラリと見てから、正直に答えた。


…大野くんのウチだけど…。」



「えっ?行ったんですか?一人で?」



「うん…。」



「俺、今日一緒に行けなくなったから、やめましょうって言ったじゃないですか?男んちに一人で行くなんて無謀すぎますよ!いくら大野が草食系だからって…。」




草食系…ではなかったような…

なんて思いながら、篠原くんの言葉を聞いていた。




「…で、大野はどうでした?」



「ああ…えっと、風邪こじらせてすごい熱があって、今は薬を飲んで寝てるよ。」

 

電話の奥から、はあーっと息を吐く音がする。



「じゃあ、もう大丈夫なんですよね?」

「あ、うん、薬飲ませたし。」



「…飲ませたって、郁さんが?もう、なにやってるんすか!今すぐそこから出てください。郁さん、聞いてます?」



篠原くんの強い口調に圧倒されながら、私はここに来た時の大野くんの状況を説明し、今はやむを得なくここにいるということを弁明をした。

もちろん、キスのことは伏せて。




「それで、今帰るとこだったんだよ、そしたら、電話が…。」



私は、電話をしながら、いそいそと帰り支度を始める。



「そうだったんですね?じゃあ、とにかく今日は帰ってください。あ、郁さんの残りの仕事、片付けておきましたから。」



「えー?ほんと?篠原くん、ありがとう。すっごく助かる。今日、終ってないのに帰ってきちゃったから、明日早出しないといけないって思ってたの。」



私は、片手で机の上を片付けて、コップの水を入れ替えた。


最後に、ソファで寝ている大野くんに背を向けて座り、起きたらすぐに飲むようにと、薬の袋に書きこんでいく。



「じゃあ、今から出ます。うん、いろいろありがとう、うん、はい、分かった。うん、じゃ、また明日。」



篠原くんが電話を切ったのを確認して、私も電話を耳から離す。












…えっ?


ふっと一息ついて、肩を下ろした瞬間、ギュッと後ろから抱きしめられた。



ビックリし過ぎて、声も出ず固まっていると、後ろから少しかすれた大野くんの声。



「…さっそく不安にさせないで…。」



そして、身体全部を包むようにして、もう一度強く抱きしめられる。


大野くん…?




「今の…篠原?」



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「あ…うん。今日一緒に来るはずだったから…。」


大野くんは、私の頬に自分の頬を寄せ、はあーっと長く息を吐いた。

辛そうな雰囲気。



「大野くん、寝てなきゃダメだよ。」



身体中に大野くんの熱さが伝わって、まだ熱が引いていないことが分かる。




「ねえ、篠原に仕事やってもらって嬉しいの?」


「え?…ん、まあ…



「ねえ、いつも、あんなに楽しそうに電話すんの?」


大野くんは、私の身体の前で交差した右手を離し、テーブルの上の薬の袋を取ると、メモが書かれた方を裏にして、また机に戻した。



「…郁ちゃんが帰ったら、俺、薬飲まないから…。」



「何言ってんの…ダメだよ、飲まなきゃ。」



「嫌なもんは嫌だ。」




大野くんの身体は、まだこんなに熱い。

薬を飲まなかったら、いつまでたっても治らない。



「飲んで、お願いだから。」



「郁ちゃんは…篠原が帰れって言ったから帰るの?」




「え?なんでさっきから、篠原くん、篠原く…んっ…ん…


私が、薬の袋を手に取って振り向くのと、大野くんの唇が降りてくるのとが同時だった。



強くぶつかるように重なった唇は、さっきのキスとは違って、苦しいほど激しい。


大野くんは、私の手の中にある薬の袋ごと、強く手を握った。




「お…おの…くん…どうしたの…苦しいよ…



私の問いには答えず、代わりに何度も何度も唇を重ねてくる。


苦しくて、唇を離そうとすれば、強く抑えられて身動きがとれない。




まるで、身体の真ん中をギュッと掴まれているようで、全身が痛いくらいに痺れてくる。



息が上がる。



胸の上にとどまっていた大野くんの手が、乱暴に動き始めた。



何だか様子がおかしい。



「いや…やめて…どう…した、の…?」



私は、その手を上からおさえて、なんとか引き離す。



なおもキスを続ける大野くんの唇を、強く噛んだ。



狂ったようなキスが止み、


「…ごめん…。」


と一言呟いて、項垂れる。



「バカだ、俺。郁…郁ちゃん、帰っていいよ…今日は、ありがとう。」



そう言って、大野くんは、ソファに寝転び丸くなった。


私は、何が何だか分からなくて、丸まった大野くんの顔を覗き込む。



「ねえ、どうしたの?風邪の菌が、頭に回っちゃったの?」



私は、心配してまじめに聞いたはずなのに、大野くんはクスッと笑って口を開いた。



「風邪の菌が頭に回って、おかしくなったと思ったの?」




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「…うん…そう言うことがあるって聞いたことがあるから。」



大野くんは、バツが悪そうにしながら、鼻の下を人差し指で掻いた。



「違うよ。…郁ちゃんが、篠原と電話してたから。」



「篠原くんと電話したら、おかしくなるの?」




大野くんは、私の顔をまじまじと見つめた。

ああ、それやめて、穴が開くってば。




「郁ちゃんは、かわいいね。」



「な、何?突然。」



「そういうとこ、めちゃくちゃ好きなんだ。」



「そういうとこって…何よ?」




「…だから、そういうところだよ。」


そうして、スッと大野くんの手が伸びてきて、私の顎を掴んで顔を引き寄せる。



「帰っていいって言ったくせに、俺ってダメなやつだな…。今度は、優しくするから、もう一回、目、閉じて。」



大野くんは、私の目に目隠しするように手を置くと、私の唇をペロリと舐めた。



「あ、やだ、くすぐったいよ…。」




「我慢して…



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それから大野くんは、私の顔を、猫みたいに舐めていく。


まつ毛も、瞼も、鼻先も、頬も顎も耳たぶも…



そしてもう一度、私の唇をペロリと舐めてこう言った。



「郁は、俺のだから。」



何か言おうと開いた私の唇に、緩やかに重なる柔らかな唇は、泣きたくなるほど優しかった。



「俺は、郁のものだから。」



私が頷くと、大野くんはギュッと私を抱きしめた。






「もう少しだけ、ここにいて。」



そう言う大野くんを置いて、帰れるわけがない。




「…何もしないならいてあげる。」



「なんだよ、急に年上ぶって。」



大野くんの唇が、子供みたいにツンととんがった。


「…じゃあ、帰る。」



「うそうそ、年上大好きです。」




じゃあ、と私は、袋から薬を出して、コップと共に大野くんに渡した。




「…口移しがいい。」



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「うつるから、しないでいいって言ってたのは、どこの誰ですか?」




私は、薬を口に含んで、寝ている大野くんの唇にそっとキスをした。




「ありがと…ふふっ、篠原、ざまあみろ!」



「なんで、篠原くんの名前が出てくるのよ?もう、いいから、さっさと寝なさい。」


「…うん。あ、ねえ、郁ちゃん、耳かして。」



「なに?」



私は、大野くんの口元に耳を寄せる。



「治ったら、デートしようね。」



胸が、キュンと音を立てた。






大野くんは、私のちいさなカーディガンにくるまったまま、スッと眠りに落ちていった。








日付が変わるころ、下がった大野くんの熱。


私は、もう心配いらないと、握っていた手をそっと離して、この部屋を後にした。



ほんの少しの恥ずかしさと、いっぱいの嬉しさで、ふわりと膨らんだ私の心。



これじゃあ、明日会社で会ったら、にやけちゃいそうだ。


自然と笑顔になる頬を抑えながら、明るい満月の下を歩いて帰る。




ふふ、気をつけなきゃ。


自分で自分の頬を軽くたたいて、また笑った。























……………




挿絵原画


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またまた絵師さんとのコラボ?です。

ほんとに素敵な絵で、大好きです。

いつも借りてばかりで、ちゃんとお話で返せているか心配です(;^_^A






さて、

続き書いてみました。
楽しんでいただけたら嬉しいです。


今回は書いてたら、いつの間にか朝になってました。

それぐらい集中して書いたのは、ほんとに久しぶり。


やっぱりお話を書くって楽しいな。



何かありましたら、また遠慮なく言葉を置いていってくださいね。

大切に読ませていただきます。





この続きがあるかないかは、また、考えます(^^)






いつもありがとう。

今日も素晴らしい一日を!






tomoe





















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