23:59
デジタル時計の表示が大きく変わり、今日が終わって、明日になった。
「どうしたんだろう…。」
今朝のメッセージを、もう一度開いてみる。
『今日、絶対優勝してくるから。』
カレンダーを見てから、もう一度画面に視線を落とした。
未だに、大野からの連絡はない。
携帯を振っても、再起動させてみても、何の変化もなかった。
「待ってて」と言われているし、私からは連絡し辛い。
それでも、携帯の画面に伸びる指先。
ドウシタノ?
これじゃあ、なんかね…。疲れて寝てるだけかもしれないし…消去。
ユウショウシタ?
連絡来てないんだから、優勝してないかもしれないよね…消去。
モシカシテ、マケチャッタノー?
思い切って明るめに…って言っても、文字じゃ明るさは伝わらないよね。
嫌味に聞こえちゃったら嫌だし…消去。
イマ、ナニシテル?
聞きたいけど…消去。
ゲンキ?
だよね。わざとらしいから…消去。
ワタシノコト、ワスレチャッタノ?
はあ…消去。
ベッドに仰向けに寝転んで、
そっと目を閉じれば、脳裏に浮かぶ あの日の大野。
『お前といると楽しーよ。』
指が画面を滑り、溢れる気持ちが言葉になる。
アイタイ
コエガキキタイ
オオノガ…
オオノガ…ス…
だけど、
その先の文字が打てなくて、指が止まる。
私は、答えを探すように、カバンに目を向けた。
『…大野のグリップ、ボロボロじゃん。』
『あ、そっか?なんか、買いに行く暇なくて。』
大野のグリップが、ボロボロなのは知っていた。
だから、なんだかんだ言って、あげるつもりで持ってきたグリップを、
ジャージのポケットから取り出して、大野の前に差し出した。
『じゃ、これ、あげるよ。私、もう使わないから。』
『なんで?お前、テニスやめちゃうの?』
『やりたいけど、向こうの学校には、テニス部が無いんだって。』
『そっか…。なんか、残念だな。うん、じゃ、もらっとく。その代わりにこれ、お前にやるよ。』
そうして私の元に来た、あの「S」のキーホルダー。
そうして私の元に来た、あの「S」のキーホルダー。
今は、私のバックについていた。
きっと、そうなのかもしれない。
私なんか、必要ないって意味かもしれない。
オオノナンカ ダイッキライ
ウソつき!
翌朝、
…ラッキーボールなんて、誰が言ったんだか…。
しばらく指を滑らせてから知る現実に、長く息を吐いた。
それなら、もういい。
…全部 消去。
そう思い込んで、
私は、どこにも持っていきようのない気持ちを、無理に消去するしかなかった。
ぽっかり空いた心に、別の感情が湧き上がってくる。
オオノナンカ ダイッキライ
もう、知らない!
待ってろって言ったくせに!ウソつき!
顔も見たくない!
私は、自分の壊れそうな心を守るために、大野に怒りをぶつけた。
見えない不安や取り残された寂しさから、一刻も早く逃れたかった。
「私、今まで何やってたんだろう?
「私、今まで何やってたんだろう?
…めっちゃウケる。」
「大野のウソつき。最低。」
送信。
そのまま返信を待たずに電源を切り、布団をかぶって目を閉じた。
翌朝、
寝たのか寝ていないのか、ふわふわと目が覚める。
右手に握ったままの携帯。
恐る恐る電源を入れれば、すぐに待受けの黄色いボールが映る。
…ラッキーボールなんて、誰が言ったんだか…。
しばらく指を滑らせてから知る現実に、長く息を吐いた。