これ、3年近く前に書いた時代物です。
お好きな方だけ読んでくださいね。
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第一話
時は戦国の世。
妖田一族は、落城の瀬戸際に呪いの言葉を言い放つ。
頼通の娘、雪姫は、生まれたばかりの娘とともに、山奥の祠に逃げ込むも、直ぐに妖田の追手に見つかってしまう。
姫は、娘を家来に託し、自ら祠に火を放つ。
燃え盛る火の中、姫は静かに目を閉じる。
「どうか…歌姫を…お守りください。そして、山風の勃興を願い…ま…す。」
龍の如く巻き上がる炎は風を呼び、妖田の追手を吹き飛ばす。
そして、炎の先から吐き出された姫の魂は、5つに分かれて空へと放たれた。
呪いの力で生き返った妖田一族が、全てを力で支配する残虐な世界。
歌姫は、山奥の小さな村で、逃げ延びた家来の娘として、何も知らずにひっそりと暮らしていた。
姫が18になったとき、家来は病にかかる。
家来の死の間際、姫は、自分が山風一族の末裔であることを告げられた。
「母上様の願いをどうか…歌姫様のお力で…どうか…。」
姫は、冷たくなった家来の手を握り、溢れる涙をこらえきれずに泣いた。
「だが…私一人では…どうすればよいのだ…。」
途方に暮れる姫の前に、ある日一人の僧侶が訪れる。
「私は、風に導かれてこの村にやってきた。このあたりで、このような痣を持つ娘を知らないか。」
姫は、僧侶の絵を凝視する。見覚えのあるものだった。
「これは…。」
そこに描かれた絵は、物心ついた時にはすでにあった胸の痣と同じであった。
「…これのことか?」
姫は、襟を開いた。
僧侶の目は大きく見開き、唇はブルブルと震えている。
「おおっ!では、あなたが歌姫様!」
僧侶は、姫の前に膝まづき、頭を下げた。
僧侶は、山風に仕えていた者の子孫だという。
「それが、私の定めならば参ろうぞ。おぬしの名はなんと申すか?」
「私のことは、枡(マス)とお呼び下さい。」
「では、枡、頼んだぞ。」
…深夜…
「何奴!」
枡が侵入者に斬りかかる。
鋭く光る瞳から、フッっと気配を消した。
「なんじゃ、乞食か。ほれ、これを持っていくがよい。」
男が手を出すと、その掌に姫と同じ痣があるではないか。
「姫様!!歌姫様!!」
「何じゃ?」
枡が、男の手を広げて歌姫の前に差し出した。
「これは…!おぬし、名を何と申す。」
「いててて!か、風間雅紀じゃ。」
姫は枡の手に触れ、こくんと頷いた。
「そうか…枡、手を離してやれ。雅紀とやら、その痣をこちらへ。私によく見せておくれ。」
「わわわわっ、なんじゃなんじゃ!!」
「雅紀…探していたぞ。」
「私と一緒に来てはくれぬか。」
「へ?そ、それはどういうことじゃ?」
「おぬしにその玉を授けた母上は…?」
枡が尋ねた。
「おらん。父も母も妹も、村のみんな全部…妖田一族にやられた…。あいつら、ぜってーゆるせねー。」
雅紀は、驚いた顔で私と枡を代わる代わる見る。
私が頷き、枡も頷くと、雅紀は、ニカッと大きく口を開けて笑った。
「よし!行ってやるぜ」
「いいじゃねーか、仲間なんだし、なあ?よいぞ。ついていこうぞ!なあ、パンの助。」
あと四人。
残る剣士はいづこに。
つづく。
…………………
雅紀の持つ玉「信」とは。
儒教において、五常の一徳目であり、友情に厚く、人をあざむかないこと、誠実なことをいう。