小説@時代物「山風五剣伝」②リメイク版
第3話
「和也、傷はどうじゃ?」
「姫様、もう、大丈夫ですよ。心配いりません、ほら、この通り!」
和也は、手を上げたり下げたりしてみせる。
「そうか、それは良かった。無理せぬようにな。」
「はい。」
その様子を見ていた雅紀が、薄ら笑いを浮かべて和也に近寄ってきた。
「…おい、和也ぃ、姫様ってやっさしいよなーーー!」
「ウキー、ウキキウキキ。」
「俺、惚れちゃいそうだよ、なあ、和也ぃーーー!」
「ウッキーウッキー!」
「お、そうかそうか、パンの助も姫を好いとうか?」
「お前、声が大き過ぎなんだよ!…ま、あの団子っ鼻が、富士の山になるなら考えておくがな。」
「また、そんな可愛くない言い方しおって…本当は好いとるんじゃろう?」
「う、うるさい!これ以上言うと斬るぞ!」
「おー!やるかー!とりゃーーー!」
わははははははは…
「まったく、騒がしい二人じゃ。」
「さようで。しかし、あの二人を見ていると気持ちが明るうなりますな。」
「そうじゃな。」
我らは妖田一族を倒すために、光る玉を持つ五人の剣士を探す旅をしていた。
「わー!なんでじゃ!なんでそうなるんじゃ!まったく分からん!」
「ほう?そうか、それは、お前の脳の味噌が足らんからじゃ。」
「あーーー!姫様ーー!こやつ、また人のことをバカにしておりますぞーー!」
和也は幻術が得意で、時間ができると皆に披露していた。
この芸のおかげで、銭を稼ぐこともできる。
今日は、雅紀が久しぶりにうまいもんでも食いたいからと、人々を集めて和也に幻術を披露させていた。
「なるほど。これが、本物の幻術というやつか?」
すると、どこからともなく一人の若武者がやってきて、真ん中にどっかり腰をおろした。
「おいおい!なんじゃ?おぬし、まずは銭を払え。」
「…銭なら後だ。」
「何じゃお前?ここに、銭は先だと書いてあろうが!」
「…俺を上手く騙せたら、銭などいくらでもくれてやるわ。その代わり、簡単に見破れるようなチンケな幻術なら、お前の顔に墨を塗りつけてやる。」
「なんじゃと?黙って聞いておれば勝手なことばかり言いおって…。」
「芸とはそう言うもんじゃ。対価に見合ったものを見せてくれれば良いだけの話じゃ。」
「くっそ~、お前!いいかげんに…
今にも若武者に飛びかかろうとする雅紀の肩を、和也が掴んで座らせる。
「…雅紀、大丈夫じゃ。見ておれ。」
「しかしだな!」
「大丈夫じゃ、任せておけ。」
「ああ、わかった。」
雅紀は腕を組み、若武者を睨んだ。
和也は、唇をクッと歪めて薄く微笑む。
「では、参る。」
和也は、瞬きをした瞬間、どこぞに消えていなくなった。
キョロキョロと見渡すも、全く姿が見えない。
「私はここじゃ。」
声がする方に目を向ければ、いつの間にか雅紀の後ろに座っていた。
「なんじゃ、和也。こりゃどうなっておるのじゃ?」
「では、次!」
そこから和也は、見事な幻術を披露した。
雅紀はぽかんと口を開けたまま、その場で固まっている。
「恐れ入りました。先程の無礼をお許し下さい。」
若武者は、和也の前に進み出て、銭の入った袋ごと差し出した。
和也は、それをそっと押し戻す。
「そんなには受け取れん。お前もそれがなくなったら困るであろう?あいつにうまいもんでも食わせてやってくれれば、それでいい。」
「あいつ…?」
二人して、雅紀の方を見れば、未だぽかんと口を開けたまま。
「ぷっ、くくくくくっ!」
「わっははははは!。」
笑い声に気づいた雅紀が、ハッとして我に返る。
「あ~!お前ら、なんで笑っておる!さては、また俺の悪口か!」
飛びかかってきた雅紀を、和也と若武者で押さえ込む。
「こら、離せ!」
「…こやつ、どうしてくれようか。」
「そうだなあ、くすぐってしまえ。おりゃあ!」
「わわわわっわっ!やめろ、コラッ!やめろって、和也ぃ~~~!」
「…くっそ、お前ら、今度やったらただじゃすまねーからな。」
和也と若武者は、顔を見合わせて微笑んだ。
「おぬしとは気が合いそうじゃ、名は?」
「我は、風見潤と申す。…実は、私も幻術ができまする。だから、気になってこちらに参ったのじゃ。」
潤は半裸になると、袂から小さな玉を取り出し、臍の辺りにある痣にその玉をかざした。
光を放つその玉には「義」の文字。
「おい!お前っ!」
「潤…それは!」
「面白かろう?和也殿の幻術には種があるのだろうが、私の幻術に種あかしはないのじゃ。自分でもどうしてこうなるのかわからないのでな。」
雅紀と和也は顔を見合わせて、懐に手を入れた。
「その種あかし、我らがしてみせようぞ。」
雅紀と和也は、ゆっくりと手を開く。
「これは、どういうことじゃ…?」
驚きを隠せない表情の潤。
その肩を抱く和也。
「手を近づけて見なされ。」
いつの間にか、そばに来ていた姫様と枡。
三人は、枡が言うように玉を乗せた手を近づける。
すると、三つの玉は吸い寄せられる様に集まって、強い光を放った。
「おぬしたちは、宿命で繋がっているということだ。」
「宿命?」
潤の反対側の肩を、雅紀が抱く。
「そうじゃ、宿命じゃ。我らは仲間だということじゃ。」
「潤、これをどこで?」
和也が聞いた。
「私が産まれたときに、手に握りしめておったそうだ。痣は生まれつきじゃ。それよりも宿命というのはなんぞ?もっとちゃんと種あかしをしてくれ。」
姫が潤の前に歩み寄り、静かに話し始めた。
「…宿命によって導かれる五人の剣士とともに、妖田一族を倒すために我らは参った。」
「妖田を倒す…だと?五人の剣士…だと?」
「そうじゃ。だか、未だ三人の剣士には出会えてはおらん。…おぬしは、その剣士の一人とみた。」
「私が、剣士?」
「そうじゃ、その光る玉と痣がなによりの証拠。」
雅紀と和也も痣を見せ、こくんと頷いた。
「そう言うことか…俺は、この日を待っていた。それなら、私も一緒に参ろう!いや、参らせてくれ!…私の許嫁は、妖田一族に拐われた。どうしても、この手で取り戻したいのだ!」
「そうであったか…おぬしの許嫁も、わしらの手で必ずや取り戻してみせようぞ!」
こうして潤が加わった。
残る剣士はあと二人。
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潤の持つ玉「義」とは、
儒教において、五常の一徳目であり、正しいすじみち・勇気を持って正しい道を貫くことをいう。
※「幻術」・・・今で言う手品のこと