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小説@「チャコの雪物語」~Magic of snow~①はこちら→ここをクリック
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「好きだ。」
その瞬間、腕の中の彼女が、バラバラと砕けていく。
「えっ…?」
陸人は、雪にまみれた自分の手を見て叫んだ。
「なんで、なんでだよ!チャコーー‼︎」
「陸人、陸人?」
「時間よ、陸人。」
陸人の目がパッと開く。
「今日は、早く行った方がいいわ。」
陸人は、慌てて両手を顔の前に持ってくると、手のひらを確認するように眺めた。
ああ…驚いた…夢か…。
それにしても…チャコの夢なんて、初めてみた…。
「急がないと、模試に遅れるわよ。」
母親の声が、陸人を急かすように飛んでくる。
「あ、うん、今…。」
陸人は、布団から出ようと試みるが、あまりの寒さにもう一度 温みの中に身体を浸らせた。
「なんか…今日はめちゃくちゃ寒いんだけど…。」
喋れば息が白くなる。
「そりゃそうよ。雪だから。」
えっ…雪?
陸人は、母親の言葉を疑った。
昨夜、だいぶ遅くまで起きていたが、雨さえも降っていなかったはず。
「電車が混むから嫌なのよ。だから、お父さんはもう会社に行ったわ。お母さんも、あと少ししたら行くからね。陸人も急ぎなさい。」
母親の言葉を頭の端で聞きつつ、ベッドから這い出て、カーテンの隙間から覗くように外を見た。
「…すっげー…マジか…。」
陸人の吐く息で、窓がどんどん曇っていく。
「母さん、雪!」
「だから、そう言ったでしょ?急いで準備して、陸人も早めに出た方がいいわ。」
陸人は、それには答えずに、曇ったガラスを手で拭っては、おでこを張り付けて外を見ている。
母親は、その様子に微笑みながらドアを閉め、階段を降りていった。
「それにしても、すげー雪。」
陸人が驚くのは当然で、この地域に雪が降るのはとても珍しいことだった。
しかも、クリスマスに雪が降るなんて、考えられない。
「いや、まてよ…ってことは、つまり、あの夢って…。」
陸人は、5年前から窓際にぶら下がっている長靴の形をした短冊を見上げた。
『サンタクロースへ。
これから先、俺のクリスマスプレゼントはいりません。誕生日プレゼントもいりません。
俺がこれからの一生でもらうプレゼントの全部をかけて、このお願いを書きます。
いつかもし、クリスマスに雪が降ったら…。』
突然の雪は、まだまだ止みそうにない。
「いや、まさか…。」
窓を開けて手のひらを空に向けると、雪が右へ左へと揺れながら落ちてくる。
12歳の陸人が書いたサンタクロースへの願いは、17歳になった今も変わってはいなかった。
『いつかもし、クリスマスに雪が降ったなら、元気なチャコに会わせてください。』
まさか…昨夜の夢で、俺の願いを叶えてやったとか言わねーよな…サンタクロースのおじさん。
陸人は、手のひらに舞い降りた雪をキュッと握って、空を見上げる。
それからゆっくり手を開いてみると、夢で会ったチャコのように、やっぱり雪は消えていた。
5年前の12月、どっかり雪が降ったあの日。
「ちょっと、空き地に行ってくるーっ!」
12歳の陸人は、雪が嬉しくてたまらなかった。
勢いよく外に飛び出して、真っ白な道を思いっきり走る。
寒くなんかなかった。
広い空き地にたどり着くと、ふわふわな雪の上に大の字に寝転んだ。
眼を閉じると、冷んやりとした空気に混じって、頬にあたる雪がくすぐったい。
…ん?
今のって、雪じゃねーよな。
うっすら目を開けると、雪を纏った茶色い猫が、陸人の頬に顔を寄せていた。
陸人は、あの雪の日がチャコとの出会いだったなと、部屋の隅に置かれた丸い餌皿を愛おしく眺めた。
③へ続く。
………
当初、前後編の予定で書いていましたが、長くなっちゃったのでもう少し続きます。