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小説@「チャコの雪物語」〜Magic of snow〜③

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………







模試は最悪だった。




電車が遅れて遅刻。

注目を浴びながら途中入室。



それに焦った陸人は、落としてしまった。

よりによって、一番落としたくなかったアレを。







無情にも、遥か彼方にバウンドしていった消しゴム。

 
問題は、まだ2問目だった。


これ以上目立ちたくない。でも、消しゴムを使わないわけにはいかない。


陸人は、悩んだ末に小さく手を挙げた。



5秒で心臓は限界に達する。

試験官に気づいてもらえないまま、静かに手を下げた。





案の定、消しゴム無しで受けた英語は散々。


それを引きずって、残りの教科も酷かった。






「俺って…マジでメンタル弱すぎじゃね…?」


あんなに勉強したのにと、悔やまれてならない。


陸人は、教室の隅に転がった消しゴムを拾いながら、ため息まじりにつぶやいた。




「でも、頑張るって約束したしな…。」



頑張っていれば、いつかは結果がでるはずだよな。な、そうだろ?







帰りがけに「雪が落ち着くまで、カラオケでも行かないか。」と誘われたが、

陸人はそれを断って、足早に出口へと向かった。




ロビーの人垣を抜け、ドアを押し開けると、雪が 勢いよく舞い込んでくる。


陸人のカバンについた鈴が、チリンと鳴った。


見上げた空からは、雪が次々降りてくる。




陸人は、傘を開いて、足を踏み出した。



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駅は、遠くからでもわかるほど混雑していて、バスにもタクシーにも長い列ができている。




「…歩いて帰れない距離じゃないし、それに、せっかくの雪だしな…。」



陸人は、出しかけたパスケースをカバンに戻し、駅に背を向け歩き出した。







まだ誰も歩いていない場所に、足をストンとおろすのが気持ちいい。




道のあちこちで、子供たちが雪だるまを作る場面に出くわした。


楽しそうな様子を見るたびに、あの日の自分を重ねてしまう。



「朝はすっげー嬉しかったんだけどな…。」



あの日から、陸人にとっての雪は、嬉しいものから、切ないものへと変化していた。









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「もう少しだな…。」



カフェに寄ったり、書店に寄ったりしながら、ようやく家の近くまで帰ってきた。



あの雑木林の向こうに、チャコと出会った空き地がある。


陸人は、迷わずそこへ向かっていった。








雑木林をくぐり抜け、眼前がパッと開けた途端、

最初に目に飛び込んできたのは、向こうから飛ぶように走ってくるネコの姿。



陸人は、咄嗟に屈んで手を広げ、そのネコをいつものように抱きしめる。






「おい…お前…?」


どう見てもチャコだった。



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「チャコ?なんでお前がここにいるんだよ?」




陸人は、茶色の毛についた雪を手で払いながら、チャコの顔を覗きこんだ。




「勝手にウチから出てきたのか?」




チャコはそれに答えるわけもなく、陸人の頬をペロリ舐めるだけ。


陸人は、チャコの頭を撫でながら、ふうっと息を吐いた。



「あのね、ここはお前に出会った場所なんだよ。あの日も今日みたいにたくさん雪が降ってさ…お前はまだ、すっげーちっちゃくて…。」





切ない想いが胸に溢れて喉を塞ぎ、言葉に詰まる。


陸人は、言葉を発する代わりに、チャコをぎゅっと抱きしめた。














④に続く。






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