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妄想小説@「携帯さとし」後編(大野智)

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妄想小説@「携帯さとし」前編はこちら


http://ameblo.jp/see-la/entry-11594803424.html




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さとしくんに会う手順。

ちゃんと聞いておけばよかったと後悔した。


どうやったって彼は現れない。


携帯の画面を頬に当てる。

ひんやりとした感触が、寂しさを倍増させた。


涙がツーッと頬に伝わって、携帯の画面を濡らしていく。






「…これ、防水きいてんの?」


えっ?

その声に驚いて、涙で濡れた携帯の画面を見た。



「あんまり泣くと、使えなくなるぞ。」




Blue Moon~大野智~ 嵐×妄想小説-image

うそっ…


なんで…



「さとしくん!…どうして?」


さとしくんは耳たぶを触りながら、ぽつぽつ話しはじめた。


「いやぁ…帰ろうとしたんだよ、途中まで…でも、帰るにはさ、まだ時間があるから…。」




「もしかして…私を心配して、戻ってきてくれたの?」


「い、いや、まあ…その…俺のせいで、失恋させちゃったからな…。」

さとしくんは、申し訳なさそうに私を見上げた。



「君は平気だって言っていたけど、ほんとは泣くほどつらかったんだな…ごめんな。」


さとしくんは、私が失恋したから泣いていると思ってる…?



「こんなとき、そばにいて慰めてやりたいんだけど…俺、こんなだから…ごめん…



Blue Moon~大野智~ 嵐×妄想小説-image


君が泣いてるっていうのに、涙さえ拭いてあげられない。」



さとしくんは、私に向かって手をかざした。


「さっきみたいに、画面にほっぺをつけてみて…

私は言われるままに、画面に頬をつけた。



「こんなに近くにいるのに…触れられない…


さとしくんの声を近くに感じる。

胸の奥がザワザワと揺れ始めた。



「画面は温かい?それとも冷たいの?」


「…冷たいよ。」



「そっか…じゃあ俺は…君を温めてあげることもできないんだな…


さとしくんの声があまりにも切ないから、言葉を発することさえ躊躇ってしまう。




「何にもできなくてごめんな。」



Blue Moon~大野智~ 嵐×妄想小説-image

「俺ってほんと、役立たず…



さとしくんの目には、涙がいっぱい溜まっているように見える。

それがこぼれないように、目線を上げた。



「結局戻ってきても、俺は君に何もしてやれない。」


私は何度も首を振った。


「ううん、そんなことない。

さとしくんが戻ってきてくれて、すっごく嬉しかったよ。


泣いていたのだって、失恋したからじゃない。

さとしくんにもう会えないと思ったら、涙が溢れて止まんなかったんだよ。」


「そっか…。」

さとしくんは、「ありがとう」と言って、私に背を向けた。


「でも…君は君の世界の男に、幸せにしてもらうんだ…
そう言って、さとしくんはゆっくりと歩き出す。



「待って、さとしくん!あなたを呼ぶ方法を教えて!また会いたいの…ねえ、さとしくんっ!!」


私がそう叫んでも、さとしくんは振り向いてくれなかった。

それでも私は、叫ぶことしかできなかった。


手を掴んで引き留めることができないもどかしさ。

走って抱きしめて、引き留めたい。


小さくなっていゆく背中。

次第に画面が暗くなり、いつもの待ち受けに戻った。



さとしくんは行ってしまった。


もう泣いても叫んでも、さとしくんが私の携帯に現れることはなかった。




Blue Moon~大野智~ 嵐×妄想小説-image



あれから、携帯の画面を見るのが癖になった。

なんの用もないのに、何度も画面を見てしまう。



会いたかった。


さとしくんにもう一度。

会って、ずっとそばにいてほしいと伝えたかった。


どうにもならない想いを抱えたまま、時間ばかりが過ぎていった。


出勤途中に通る公園は、朝もやに包まれ、ひんやりとした空気が漂う。


木々の間をゆっくりと歩いていく。

新鮮な空気が、私の心を洗ってくれるようだ。



さとしくんのいる世界には、こんな景色はあるのだろうか…

ふと、そんなことを考える。


私は歩みを止め、想いを打ち消すように大きく深呼吸した。

息を吐いて周りを見渡す。


視線の端に、人の気配。


生い茂る木々に隠れて、ここからは足もとしか見えない。




Blue Moon~大野智~ 嵐×妄想小説-image



ベンチの上。

見える足先は、ときどきパタパタと動いている。



鳥の声に耳を傾けながら、真っ直ぐ歩いていく。


ベンチに近づくにつれ、その人の姿が露わになる。



ドキリとして、足が止まった。

何度目を凝らして見ても、その景色は変わらない。



急いで携帯を取り出す。

いつもの待ち受けのままだ。




もう一度、ベンチに視線を向けた。



身体を丸めて、どこか遠くの方を見つめているその人は、私が会いたいと願ったさとしくんだった。




Blue Moon~大野智~ 嵐×妄想小説-image




「さとしくん!」


私は彼に走り寄る。

さとしくんは、ゆっくりと私に視線を向ける。



「…やっと、君に会えた。」

そう言って、ふんわりと微笑んだ。


「どうして?なんでここにいるの?帰ったんじゃないの?なんで人間なの?携帯は?ねえ、なんでなんで?」



私は矢継ぎ早に質問を繰り返す。

さとしくんはそんな私を、優しい眼差しで見つめるだけだ。



溢れる感情を抑えきれずに、涙が頬を伝ってこぼれ落ちる。


さとしくんの手が、私の頬に触れた。


温かな大きな手。

そっと涙を拭ってくれた。



「…君に…触れることができた…


さとしくんの瞳が揺れている。
私の涙は、さとしくんの手のひらに吸い込まれていく。



「俺たち自身もね…一つだけ願いを叶えることが、できるんだよ。」


私はその意味が分からずに、さとしくんを見つめた。


「だけど、願いを叶えてしまうと、俺にはなんのチカラもなくなる。そして、自分の世界すら捨てることになるんだ。」



「…どういうこと…?」



「まだわからない?俺は自分の世界を捨てたんだ。」


ああ…私は言葉の意味をようやく理解した。

涙が、後から後から溢れて止まらない。



「もう一度君に会うために。」


言葉が出ない。

流れ出るのは涙ばかり。



「願いを叶えた。俺はもうなんのチカラもないただの人。」


私に向けられる視線の優しさ。

透明で純粋で、儚くて…抱きしめたくなる。



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私はさとしくんの前に歩み寄り、胸にコツンと頭をぶつけた。


「私もずっと会いたかった。ずっとそばにいてほしいって、ずっとずっと…


最後の方は、言葉にならないほど泣いていた。

さとしくんの手が、私の背中に回されゆっくりと力が込められていく。



「抱きしめるって、こんなにあったかいんだな…


そうつぶやく、さとしくんの温かさ。

鼓動が重なって、速度を上げた。



「俺、携帯の画面を通してしか、キスをしたことないんだ。」


私の顎にそっと添えられる指。



「画面越しの冷たいキスしか知らない俺に、本当のキスを教えて…



Blue Moon~大野智~ 嵐×妄想小説-image





そうして、ゆっくりと重なる唇。


あたたかく柔らかく、そして甘い。

だけど、胸がギュッと締め付けられるほど苦しくて切なかった。




握っていた携帯が、手からこぼれ落ちた。



Blue Moon~大野智~ 嵐×妄想小説-image




これからは、携帯をずっと握っていなくてもいい。

ずっと画面を見ていなくてもいい。


だって、こうして手を伸ばせば、あなたに触れることができるのだから。








~ end ~







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耕太まで、あと5日。

























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