避暑地。
夏休みだからって、無理やり時間を作ってくれた。
街の中は人が多い。
そこを歩くのは、とても緊張する。
智とは並んで歩けない。
誰にも見つかってはいけないから。
私は、智の後ろ5Mを歩いている。
「大野くん!」
あ、また呼び止められた。
私は知らんぷりして通り過ぎる。
しばらくして、走って私を追い抜いていく智。
私はその背中を見ながら、ついていく。
話しをしたいときは、電話をかける。
5M前の智が、携帯を耳に当てる。
「どこまで行くの?」
「もうちょい。」
「もうちょいってどのくらい?」
「だから、もうちょい。ってか、話すと気付かれる~!」
電話をして、すぐまた女の子に呼び止められた。
中途半端な会話しかできないまま、電話を切った。
私はまた、知らんぷりして通り過ぎる。
今日は何人目?
あんまり考えるのはよそう。
ヤキモチ妬いたってしょうがない。
街なかを離れ、人通りも少なくなってきた。
後ろから足音が聞こえる。
私の横を通り過ぎるメロンの香り。
ああ、智だ。
私の5M前で立ち止まる。
そして、ゆっくりと振り返った。
私を待っててくれている。
やっと並んで歩けるところまで来たみたい。
「早くおいで。」
私は小走りで智のもとへ。
智は私の頭をクシャっとする。
「やっとだな。」
そう言って、私にだけ、その笑顔を向けてくれる。
私の大好きな、穏やかで優しい微笑み。
「見える?」
そう言って指差す先には、小さなログハウス。
「行こっ!」
智は、私の手を掴んで走り出す。
2人になるには、どうしても隠れなきゃいけない。
おうちデートは当たり前。
だけど今日は、おうちはおうちでも避暑地のログハウス。
ステキな夏の思い出できるかな…
ログハウスの鍵を開け、ドアを背にして智が振り返る。
「今日はずっと2人だから…
ああ、またそんな顔…
昂る鼓動を飲みこんで、靴を脱いだ。
部屋に入って、とりあえず席に着く。
智は頬杖を突きながら、私に視線を向ける。
「とりあえず…なにしよっか…
見つめられれば、その視線の強さに負け、下を向く。
自分の鼓動がギュンと速さを増す。
静かな室内。
何度二人になっても緊張する。
「答えないなら、俺におまかせってこと?」
私は頷いた。
なんでもいいよ、一緒にいられるなら。
「じゃあ…まずは、一緒にDVDでも観るか?」
そう言って立ち上がり、デッキにDVDを入れて再生する。
部屋の電気を落として、ソファに並んで座る。
流れ始めた映像に面喰って、咄嗟に下を向く。
「…智…これって…
「ふふふ…こういうの一緒に見てみたかったんだよね。」
画面じゃなくて、私の表情を見ている智。

心臓が跳ね上がって、身体が熱くなる。
DVDから流れる声と、私を見つめる智の視線で、頭の中は軽くパニック。
私は恥かしさの反動で、ペラペラと喋り捲る。
「智のバカ!」
「智の変態!」
「智のエロ男爵!」
「智の…
智は、そんな私を笑顔で見つめる。
ああ、ダメだ…完全に負け。
「さと…し…の…
言葉が出ない。
蛇に睨まれたカエルな私。
「俺の…なに?」
「さとし…の…
智がぐっと近付いて、低く囁く。
「変態な俺は、嫌いか?」
…撃沈。
「…大好き。」
「…だろ?」
ふわっと笑って、私をギュッと抱きしめる。
この人には、全く太刀打ちできない。
「なあ…今日はあれ、やってみようぜ?」
そう言って、画面を指差した。
智の指差す方向を見て、思わず自分と置き換える。
「……!!!」
血が逆流するよ、バカ智。
「…できないよ、バカ…
恥かしくて、真っ赤になった私に、さらに追い打ちをかけるように、あれは?あれは?と指差した。
絶対わざとやってる。
私の反応を見てるんだ。
私は、無言で智の腕を叩lこうとして、逆に腕を掴まれる。
泣きそうな声で智に反撃するも、全く歯が立たない。
「意地悪したくなる、お前見てると。」
唇が触れそうな距離。
キスするのかと思いきや、フッと息を吹きかけニヤリとする。
こんな意地悪な顔した智、テレビでも雑誌でも見たことない。
「意地悪…
「意地悪だよ、俺。今頃わかったの?
でも…俺が意地悪すんのは、お前だけだから。」
そうして今度は、いきなりのキス。
強く激しく、私の口腔を乱していった。
言葉にも指にも唇にも…
智のすべてに意地悪されて、智との夏休みが過ぎていった。
帰りは別々。
離れて歩いて、電車もずらした。
先に帰る智の電車を見送った。
離れるときは、やっぱり寂しい。
だけどその分、会えたときはたくさん意地悪していいよ。
今度は私も、智に意地悪になってみようかな…
ううん、そんなことできるわけないなと、空を見上げて微笑んだ。
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l耕太まで、あと4日。
好きな人には意地悪な智くん。
昨日もふなっしーに意地悪してましたもんね( ´艸`)