こんばんは。
昨日と今日、「愛念」を再アップしながら気持ちをぎゅーんと戻しておりました。
お付き合いくださった皆様、ありがとうございました。
いよいよ最終話です。
最終話は前編・後編の二つに分かれます。
まずは前編からどうぞ。
妄想小説@「愛念」①はコチラ
http://ameblo.jp/see-la/entry-11557388231.html
初めていらした方は、第一話から読んでみてくれると嬉しいです(´∀`)
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あと数分で終わる金曜日。
私たちは今、飛行機の中。
毛布の中で手を繋ぎ、私の肩に寄りかかって先輩は眠っている。
私は航空券に視線を落とす。
まさか、日本に行くなんて…

2泊分の荷物を用意しておいてと言われていた。
「どこに行くの?」
「ナイショ。楽しみにしていて。」
そう言って笑う先輩。
週末を利用しての旅行だし、そんなに遠くには行かないだろうと、小さなバック一つだけ。
夕方、仕事を早めに終えて帰ってきた先輩に連れられて、タクシーに乗る。
そしてそのまま、何も知らずに空港について、飛行機に乗った。
「どうして言ってくれなかったんですか?」
ちょっと怒り気味に先輩に言った。
だって、ほとんどなんの用意もしてきていない。
「ナナの驚く顔が見たかったから。」
私の膨らんだ頬に手を当てて、ごめんねってすまなそうな顔をする。
「…行きたくなかった?」
「ううん…そうじゃないけど…。」
先輩の気持ちはよく分かる。
ほんとはすごく嬉しいの。
私は、先輩の肩にそっと寄りかかる。
「ほんとは…嬉しすぎて、胸がいっぱいです。」
先輩は、私の肩を抱き寄せ、よかったとつぶやいた。
毛布の中で、指と指を絡めて手を繋ぐ。
「安心する…ナナの手…
そうして、先輩は眠ってしまった。
窓の外は真っ暗な闇に包まれている。
日本に着くころには、明るい朝日が差し込んでくるだろう。
片方ずつしたイヤホン。
大好きな歌が流れてくる。
繋がれた手。
あなたのぬくもり。
私も同じ。
とても安心する。
繋がっているだけで、こんなにも心が温かい。
私もそっと瞼を閉じた。

「ナナ。」
名前を呼ばれて、目を開ける。
「見て。」
先輩に促されて窓の外を見れば、ちょうど雲海から朝日が昇るところ。
「ああ…すごい…
ため息の出るような光景に、お互いの手を強く握る。
「これ、ナナと一緒に見たかったんだ…
朝日に照らせれた先輩の横顔は、眩しいくらいに素敵だった。
「願い事、したくなります…
私はそう言って、目を閉じる。
「じゃ、俺も。」
先輩も目を閉じた。
「何を願ったの?」
「ナイショです。」
「…ナイショかよー…
「…たぶん、先輩と一緒です…
「そっか…。」
先輩は膝にかけていた毛布を、私の頭にかぶせて突然のキス。
「あ、やだ…こんなとこで…
「だって、お前が可愛いこと言うから…
そんな恥かしいセリフ、しれっと言わないでください…
私の心が日本まで持ちませんから…
「ナナ…日本に戻ったら行きたいところがあるんだ。一緒にきてくれる?」
「はい。もちろんです。…どこに行くんですか?」
「ん…ナイショ。」
「もう…またナイショなんですね。」
私がぷっと頬を膨らますと、その頬に口づける。
「あ、もう、だから、こんなとこで…
「ナナ…お前、つくづくかわいいやつだな…
カーッと頭に血が上り、顔が真っ赤なのが分かる。
慣れない…
先輩のこういうの…全然慣れない…
最近特に多い。
何度言われても、何度されても、心臓が飛び出るほどドキンとしてしまう。
「恥ずかしいから…やめてください…
小さな声で、抵抗した。
「無理。」
バッサリと切り捨てられる。
「かわいいって思ったら、かわいいって言うって決めたんだ、俺。」
ふえ~ん…
やめて~…
「好きだって思ったら、好きって言うって決めたんだ…それに…
「…それに…?
恐る恐る聞き返す。
「キスしたいときはするって決めた。」
あ~…やっぱり…
もー…先輩のバカ…
「ねえ、顔上げてよ。」
嫌だ…絶対嫌だ…
「ねえってば…ナナ、こっち向いてよ。」
「…だから…そう言うの、恥ずかしいから、やめ……ん…
された…キス。
もう…バカだ、私たち…ほんとに…
だけど、幸せ。
そんな風にしていたら、もう日本なんかあっという間についてしまった。
10時間以上乗ってたはずなのに、全く疲れていない。
先輩に会いに行くために、一人で飛行機に乗ったときは、眠れないほど怖かったのに…
幸せのチカラって、人を元気にさせるんだね…
先輩、ありがとう。
日本に着いてすぐ、電車を乗り継いで来たところ。
そこは、あの懐かしい時間をすごした私たちの高校だった。
「行こう。」
先輩に手を引かれて、学校の門をくぐった。
一瞬であのころに戻っていく。
大好きな先輩を想っていた日々。
春も夏も秋も冬も…ここには、先輩との思い出が溢れている。
校庭には、変わらずある大きな桜の木。
先輩の肩に乗っていた花びらが、宝物になった。
冬の日に借りたマフラーの温かさ。
今でも忘れずに覚えている。
あのころの私に言ってあげたい。
今私は、すっごく幸せなんだってことを。
想いが伝わったんだよって。
校舎の中に入り、先生の許可を受けて、あの美術室へ。
一緒に来るのは何年振りだろう…
ドアの前に立つ。
先輩がカギを開ける。
なんか…ドキドキする。
ああ…想い出す…
ホームルームを終え、一目散に向かった美術室。
ただ、先輩に早く会いたくて、駆け上がった階段。
ドアが開いて、先輩が先に入っていく。
漂う匂いが…どうしようもなくキュンとさせる。
先を行く先輩の背中。
こうして何度も見ていたっけ。
先輩はいつもの場所に座った。
私を特訓してくれた席。
「ナナ、ここ座って。」
呼ばれて座った席は、私の指定席。
いつもここに、こうして座っていた。
なんだろう…
心が苦しい。
あの頃の私。
先輩が隣にいるだけで、胸がドキドキしていつも手が震えた。
キュンとする胸を押さえて、フーッと息を吐いた。
と、同時に先輩も長く息を吐く。
それに驚いて横を向けば、照れくさそうに微笑む先輩。
あのころの先輩と重なって、もっと胸が苦しくなる。
「あの頃さ…お前が隣にいるだけで、どれだけドキドキしたことか…
「えっ…
「近付いて教えるたびに、お前の髪からいい匂いがして…心臓がぶっ壊れるくらいドキドキしてたんだぜ、俺。」
「…うそっ…
「ウソなんかついてないよ。
指が触れただけで、その日は眠れなかった。」
私は先輩の言葉がうまく飲みこめなくて、言葉を失ってしまう。
「あの頃の俺…お前のことばっか考えてたな…
そう言って、机の上にあった紙にサッと絵を描きはじめる。
…あ…これ私…?
「ほら、もう、お前のこと描きすぎて、何にも見ないでも描けるんだ。」
その言葉に驚きすぎて、ただただ先輩を見つめるだけの私。
「そんな顔すんな。」
私の頭をポンポンと軽くたたいて、微笑んだ。
先輩は懐かしそうに教室を見回しながら、私に告げた。
「ここにナナと来たかった理由、話すから。」
私は胸がいっぱいで、頷くのが精一杯だった。
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最終話:後編につづく